森里海の色
四季の鳥「ゴジュウカラ」

幹を下向きに走れる鳥

新緑の季節は早朝の野鳥のコーラスを聴くためにときどき車中泊をして朝を迎えます。標高1000mを超える富士山麓の朝は、手がかじかむほど空気が引き締まっています。空が白み始めた頃、車から抜け出して落葉広葉樹の森に足を踏み入れると、フィフィフィと囀りが聞こえてきました。見上げるミズナラの幹から枝へ、隣の幹に飛び移ったかと思うと、今度は幹を上から下に縦横無尽に走り回っています。ゴジュウカラです。
スズメよりひとまわり小さな鳥で、先の尖ったやや上に反り気味の嘴、短い尾羽、頭上から体の上面は青灰色、白くて細い眉斑と黒い過眼線、お腹は白く、雄の脇は橙色をしています。私が暮らす神奈川県では丹沢山系の落葉広葉樹の森に生息しており、冬には丘陵地にも下りてくることがありますが、平地で見ることはまれな鳥です。

五十雀

バードウォッチングを初めて間もない頃、野鳥図鑑でこの鳥の名前を知って、シジュウカラは見たことがあるけれどゴジュウカラもいるんだ、冗談みたいな名前だと思ったことがありました。名前の由来を調べてみると、昔は四十歳で初老、五十歳になれば老人と見なされていたので、青味がかったグレーの羽を老人に見立てたという説が紹介されていました。しかし、このすばしっこい鳥を老人に見立てたなんてちょっと疑わしい気がします。それにゴジュウカラの美しい青灰色は私のような老人の白髪頭の色でないことは、実際に見たことがある人ならわかるはずです。
ゴジュウカラの大きな魅力は間違いなくその幹を走り回る姿でしょう。木の幹を生活の場所にする鳥はみんな木登り上手で、これまでにご紹介したアオゲラのような啄木鳥の仲間やキバシリなどがいますが、垂直な幹を上から下に下りてこられるのはゴジュウカラだけです。
秋にゴジュウカラが幹から下りてきて地面に落ちた種子を夢中で採取しているところを観察したことがあります。幹をどうして下向きに下りてくることができるのか見ていると、片足の後指のツメを幹の割れ目に引っかけ、もう一方の足を前に出してバランスをとっていました。採取した種子を嘴を使って樹皮の隙間に埋めるときも体は下向き。このほうが楽に力が入るのでしょう。幹を下向きに上体を反り気味にしている姿は、最もこの鳥らしい姿です。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。