森里海の色
四季の鳥「チュウシャクシギ」

田んぼの塒入り

5月下旬の今頃は、一年のうちで最もバードウォッチングに適したシーズンです。週末になると、山に行こうか海岸に行こうか、それとも田園地帯に行こうか、とても迷います。先日は私が暮らす神奈川県から県外に移られた友人の案内で、房総半島の田園地帯を巡ってきました。
ちょうど田植えが終わったばかりの田んぼとフジの咲く里山が織りなす景色はまさに日本の原風景を見るようで、溜息が出るほど美しいものでした。夕方、逆光にキラキラ光る田んぼの畦には、チュウシャクシギのシルエットがいくつも見えていました。

中杓鴫

チュウシャクシギは春と秋の渡りの時期に日本にやって来る大型のシギです。下に曲がった大きな嘴、体の上面は黒褐色で淡褐色の細かい羽縁があり、シギというとこの体型を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。移動するときにはホイーピピピと、かわいい声で鳴きます。神奈川県下では4~5月によく観察されるシギで、多摩川や相模川などの河口、三浦半島の岩礁地帯でカニやフナムシを採餌しているところを観察することがありますが、田植えの終わった畦で見るチュウシャクシギはそれとはまた違う雰囲気がありました。
この日、私たちは午後6時をまわった頃、見晴らしのいい高台に移動して、背を低くして一枚の田んぼを観ていました。田んぼまでの距離は50メートルほどあります。数十羽のチュウシャクシギが田んぼに集まっていました。しばらくすると、数十羽の群が右からも左からも同じ田んぼに降り立ち始めました。なかにキアシシギやキョウジョシギも少し混じっています。チュウシャクシギのねぐらはヨシ原で、辺りが暗くなる前に近くの田んぼに集合します。辺りが暗くなり私たちが帰り支度を始めた頃、1枚の田んぼに降り立ったチュウシャクシギの数はなんと350羽ほどになっていました。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。