まちの中の建築スケッチ

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横浜ランドマークタワー
——みなとみらい地区のシンボル——

超高層ビルも、ただ超高層というだけではランドマークにならない時代となったが、横浜ランドマークタワーは、建設時点で日本一の高さ296mとした、まさに建物がランドマークであることを意識して設計された。上層から下層に向かって平面が少しずつ拡大しさらに四隅が柱状に張り出した形状で、重厚さの意図が感じられる。遠目にも横浜みなとみらい21地区のシンボルを認識させる。
みなとみらい地区の再開発事業は1983年から始まっているが、ランドマークタワーは比較的初期の1993年に竣工して事業全体の推進役を果たしている。どこの国でも港周辺は、産業が活発化した19世紀からの老朽化した倉庫や工場が並ぶ地区で、気持ちの良いウォーターフロントに整備しようという試みは多い。アメリカではボルチモアやサンフランシスコのインナーハーバー、ロンドンのドックランズなどが有名である。そんな中で、横浜市は、三菱重工造船所跡を含めた一大計画が進められたわけである。
ランドマークタワー周辺は、美術館やホテル、ショッピングセンターと多くの人が集まる賑わいの場となっている。ランドマークタワーから、海に向かって、ショッピングモールのクイーンズスクエアからパシフィコ横浜まで、スカイラインを連続的に下げて群としての全体感を構成する都市景観も味わいがある。遠景としてのベイブリッジや近景としてのコスモワールドの大観覧車も欠かせない風景になっている。全体の再開発は、南の新港地区、北の横浜駅東口地区と連続して、今も新しい都市の顔が築かれている。スケッチはレンガ倉庫の近くの新港橋からの眺めを試みた。
海外で地震の少ない国では、超高層建築は、強風が卓越した水平力になることが一般的である。ランドマークタワーの場合、「我が国で地震ではなく風で構造部材の断面が決まった初めての超高層」というような言われ方もした。しかし、このような表現は誤解を招く要素を含んでいるので注意が必要である。なぜなら、どの程度の地震動を設計で想定するか、どの程度の風速を設計で想定するかというのは、人の決めた条件の想定によるので、500年に一度の地震動と500年に一度の強風で、構造部材に発生する応力がたとえ強風の場合の方が大きくても、予測最大地震動強さのばらつきは、予測最大風速のばらつきよりはるかに大きく、もし構造的に不具合が起きるとすれば強風よりは地震動によると考えられるからだ。
いずれにしても、地震や風によって生じる揺れへの対処は、超高層建築では大きな課題であり、ランドマークタワーの場合も、頂部に工夫された多段振り子式の振動制御装置が組み込まれている。超高層建築に制振構造が設置されることが一般的になって来たという意味では、先駆的な役割も果たしている。