まちの中の建築スケッチ

25

弘前市立博物館
——弘前市内の前川國男作品群——

日本建築家協会の宮城地域会には、仙台で、いままでに何度も建築基本法制定に向けてのシンポジウム開催で世話になっているが、今回は、弘前まで遠征して議論の場を設けていただいた。全国大会が弘前で開催され、パネリストとして呼んでいただいた。弘前には、建築家前川國男(1905年―1986年)の作品が多く残されており、それらを見られるのも楽しみということで訪問した。

まちの中の建築スケッチ 神田順 弘前市立博物館 前川國男

桜で有名な弘前城の公園の一画に、弘前市民会館と弘前市立博物館がならんである。前者はコンクリート打ち放し、低く抑えた長い水平屋根のエントランスは、宮城県美術館を思い起こさせる。左手の市民会館、右手のホールを結んでいる。そのホールを回りこむと、前面にゆるい起伏のある芝の庭をもった市立博物館が、レンガタイル貼りで現れる。いずれも四角い箱に過ぎないようでいて、それぞれの中のホールには光も溢れ、気持ち良い空間になっている。同じことが、公園に接した市庁舎や、公園の対角の位置にある、緑の相談所、そして少し離れた場所にある弘前市立病院にも言えると思った。
市立博物館では、特別企画展「近現代日本画の軌跡」が開催されており、期せずして約1年前のスケッチの宮城県立美術館と同じように、公園の中の前川作品を取り上げることになった。
さらに足を延ばして、最初期の作品を訪れた。前川がフランスのコルビュジェのところから帰国してすぐの27歳のときの作品、木村産業研究所である。ごく小規模な2階建ての鉄筋コンクリート造であるが、今も健在で、こぎん研究所(津軽の伝統工芸こぎん刺しを扱う)として使われている。2階の一部屋が、「前川國男の建築を大切にする会」による前川國男のプチ博物館になっている。残念ながらこの10月末で閉館するとのことであるが、間に合って雰囲気も楽しめた。生誕101年をイベントにして、前川國男を、この弘前の地で、多くの人が集まって追想したというビデオも見せていただけたのは想像もしなかった。
他にも弘前中央高校講堂、弘前市斎場と全部で8つもの作品が、一つの市に集中している。ホテルでもらった観光ガイドマップにも、しっかりと地図に写真入りで8作品が紹介されている。まち全体で建築を大切にする心くばりが見えるような気がして嬉しかった。
駅前のバスターミナルからは、昼間だけであるが100円の循環バスが10分間隔で出ている。斎場を除くと7つの作品を見て回るのにも便利である。車社会の地方都市では公共交通が削減されていく傾向にあるが、すべて歩くには少し距離があるので、観光のためだけでなく、市役所、文化施設、病院を結ぶ、市民のしっかりした足があるのは有難い。
弘前でも城は公園の中枢になっていて、樹幹まわりが日本一のソメイヨシノを始めとして多くの古木を有し、緑豊かな空間を構成している。そんな周辺に、近代建築の比較的低層な鉄筋コンクリートの四角い箱が、近接しあるいは少し離れて、主張しすぎることなく、心地よい空間を提供している。これからも長く市民に親しまれる建築であり続けてほしい。建築家がまちを見つければこのようなことになるのか、あるいは、まちが建築家を見つけるとこのようなことになるのかと考えながらの半日であった。