色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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開放的なショーウィンドウを生かす緑
——レザーグッズ店の店先にて

9月に入り、朝夕はだいぶ暑さが和らいできたかな、と感じられるようになりました。とはいえ3日(月)の段階で大型の台風も発生していますし、まだもう少し残暑とのお付き合いは続きそうです。


例年にない厳しい暑さが続いた今年は、一層秋の訪れが待ち遠しくあります。まちあるきはどの季節にもそれぞれの楽しみがありますが、一年を通して最もまちに彩りがあるのは、秋時期ではないかと考えています。街路樹が色づき、店内のディスプレイの色合いが豊かに・深く濃密になり、冬に向かうにつれ葉が枯れ、彩りが失われて行く頃にはもの哀しさが増していきます。こうして季節や時間の変化に同調し、私たちの心持ちも移ろい・常に変化していくものだということが、秋から冬にかけてはより顕著に感じられる気がしています(……と、恐らく春から夏にかけても、同じようなことを考えている気がしています)。

この店舗は緩やかな坂道沿いにあり、店内が階段数段分、道路面よりも下がっています。正面は全面ガラス張りで、明るい店内の様子が奥までよく見渡せます。店舗前の通りはとても交通量が多く(路線バスのルートにもなっています)歩道がかなり狭いのですが、このようにファサードがガラス張りだと視覚的に奥行きが生まれ、僅かながらも歩行空間にゆとりが感じられます。
自由が丘の土屋鞄製造所前

歩行者の目線だと、このような感じです。


店舗前の緑は歩道にはみ出さないよう、また少し低くなっている店内の広がりを阻害しないよう、地被類ちひるいが中心となっています。歩道の反対側に立った時にはあまり緑量は感じられませんが、建物に添って歩いていくと急に視界が広がり、鮮やかな緑が目に飛び込んできます。店舗サインのある壁面部分にはシンボルツリーがありますが、ここでも歩道部分に枝が拡がり過ぎて邪魔にならないよう、添え木に支えられています。植物の種類は少なく、全体的にシンプルな構成ですが、歩行者に対する細やかな配慮がそこかしこに見受けられ、もてなしの風情を良く表しているなと感じています。

この店舗の製品は鞄・長財布・ポーチの3種を愛用しているのですが、いずれもシンプルで使いやすいデザインであり、長く使う程に体や手に馴染んでいきます。ひとつ問題というか悩ましいのは、シリーズによっては季節ごとに限定色が発売されるので、つい色違いで揃えたくなってしまうことです。革製品は時々休ませることも大事、といいますから、それを口実に季節に合わせて装いも変えることも楽しみたいと思っています。

ACME Furniture 目黒通り店

同じ通りにある最近新しくできた店舗は、一階部分の壁面を後退させ、少しボリュームのある緑が設えられています。わずかなスペースが人だまりとなり、通りに賑わいが生み出されています。


土屋鞄製造所の色測の様子

店舗サインのある壁面、測色の様子。わずかに緑みがあります。

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★
全体のカラフル感 ★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。