「ていねいな暮らし」カタログ

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「あなたを、待っている場所がある。」——『TURNS』

前回触れた『自休自足』は、2012年6月から『TURNS』と名前を変えリニューアルされました。私もちょうどこの時期に東京から広島に赴任したので、その時の状況を今でも思い出せますが、東日本大震災以後、「移住」という言葉の持つ意味も変容したと言えます。私のように仕事で住む地域が変わることだけでなく、暮らしを自ら選択し、それに見合った場所を探していくことが「移住」となりつつあります。

今回、タイトルにあげた「あなたを、待っている場所がある。」とは『TURNS』の創刊の辞に掲げられた言葉です。「私(たち)が移る・選ぶ」というよりは、場所(地域)の側が主語となっています。この表現には、『自休自足』が創刊した2003年以降に地方移住の流れがめずらしいものではなくなったこと、移住者を受け入れるための制度も整えられつつあることが表れていると思います。「人、暮らし、地域をつなぐ[ターンズ]」とは表紙に掲げられるフレーズですが、リニューアルとともに各地の「地域」の様子に重きが置かれるようになります。

ターンズ

創刊号の冒頭は、私の住む尾道でした1。尾道以外にも、地域通貨や自然エネルギーへの挑戦で有名な神奈川の旧藤野町を始め、海士町、小布施町、神山町、西粟倉村と、暮らし系雑誌の移住編で紹介されることの多い町が一挙にお目見えしています。その地域で活躍する人を中心とした記事で、写真の多くは作業中の写真ではなく、その人の仕事の象徴となるような場所で正面を向いてただ立っている全身写真が使われていることも特徴的です。暮らし方よりもその人自身を通して、地域や暮らしを想像させる形を取っています。

『TURNS』もまた、「生きる技術」や「移住のイロハおしえます」といったコーナーで、自力で住むことや移住に必要な情報が載っていますが2、前誌と比べると地域情報誌の方向に一気に舵を切ったなという印象があります。普遍的な「暮らし」語りやハウツーの共有から、個別具体的な地域情報データベースへ。「地域ブランド」という言い方もありますが、どのように暮らすかよりも、どこで暮らすかが重視されるようになっているようです3

(1)自分の知っている街が取り上げられると、「この頃はこんなことをしていたんだな」というように過去を確認する目線になり、メディアに取り上げられること=アーカイブとなるということを実感します。そして、いつのまにか自分の住んでいるこの街にいろんな動きがあったのだなということにも気づかされます。
(2)「生きる技術」コーナーでは、コンポストボックスの作り方や炭焼き、山菜採りの方法など衣食住にまつわる情報が載っていておもしろいなと思っていたのですが、数号でコーナーが終わってしまった様子。
(3)『TURNS』は、2017年12月にロゴやデザイン、内容をリニューアルしています。このことについてもまたどこかで触れられればと思います。

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。