色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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オープンスペースを明るく彩る緑
––チョコレートショップの店先にて

green bean to bar chocolateグリーン・ビーン・トゥ・バー・チョコレートホワイトデープレゼント

昨日、スタッフの山田くんから「バレンタインのお返しです」と、チョコレートバーをいただきました。パッケージがとても素敵で、随分お洒落なお店を知っているなあ、と感心して尋ねてみると、会社の近くにあるチョコレート専門店とのこと。他のスタッフも皆そのお店を知っていて、併設されたLABOでのワークショップに参加した経験の持ち主がいることも判明し、皆なかなか情報通だなあ、とさらに感心してしまいました。

翌日の東京は日中の最高気温が22℃まで上昇し、上着を脱ぎたくなるような陽気でしたので、所用のついでにそのお店までちょっと脚を伸ばしてみました。サクラの開花が待たれる目黒川沿いを池尻方面へ歩いていくと、ひと際ボリュームのある緑が目に入ってきました。背景の壁面には落ち着きのあるブルーが使用されており、見慣れない(でも違和感があるわけではなく)外装色と緑とのコントラストが印象的な外観をつくり出しています。

green bean to bar chocolate中目黒

外観正面。入口部分のみ緑が途切れているので、目線が自然に引き込まれます。

グリーン・ビーン・トゥ・バー・チョコレート

店内にはカフェが併設されていて、大きな開口部越しに内部の様子が伺えます。

店舗は周辺の建物に比べ、植栽帯やベンチなどがある分、1.2mくらい後退しています。前面の緑は水平方向の拡がりを感じさせると共に、店舗との間にもちょっとしたスペースがあることでさらに奥行き感が演出(強調)されていると感じました。壁面のブルーは緑よりもわずかに暗く、鮮やかさが抑えられているので手前の緑がより明るく・より手前に進出して見え、そうした配色がもたらす効果が空間の構成を引き立てています。

green bean to bar chocolate中目黒オープン11時から21時水曜定休

入口のサイン。ベンチや看板の脚など、所々に使われている天然木がアクセントとなっています。

green bean to bar chocolateグリーン・ビーン・トゥ・バー・チョコレート中目黒

入口上部のサイン。建具とコーディネートされています。

中目黒緑 ガーデンエントランス

お店に向かって右側の植栽帯にはボリュームのある緑があり、外観の見え方に変化を与えています。

チョコレート(色)とブルーという組み合わせは、商品が持つイメージからするとダイレクトには結び付かない組み合わせですが、お店のHPを見てみると「日本から新たな素晴らしい発想やアイテムを発信していきたい」という想いから、パッケージに和紙を採用していることなどが紹介されており、原料や製法(全て手作業なのだそうです)へのこだわりやコンセプトが反映された外観なのだということが読み取れました。外装色は日本の藍(染め)と結びつくのかも知れません。
ちなみに色彩学的に解いてみると、チョコレート=ブラウンはYR(黄赤)系で、その補色はB(青)系になります。扱う商品が持つ色相(色み)と最も対極にある色相を外観に配することで、チョコレート(色)の印象を引き立たせようとしているのでは……。等と思いながら、お店を後にしました。お返しにいただいたチョコレート、この外観を思い出しながら週末ゆっくり味わってみます。

色彩のフィールドワーク:もてなす緑 加藤幸枝第12測色

測色の様子。わずかに紫がかった青系、塗料用の標準色見本帳にはない微妙な色でした。

ウエルカム感   ★★★
ボリューム感   ★★★★★
全体のカラフル感 ★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。