色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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つながりや拡がりをつくる緑
––コーヒースタンドの店先にて

事務所の近くを歩いていると、この数年でコーヒーショップが増えたなあと感じます。なかでも、写真のようなテイクアウト専門のコーヒースタンドが気になります。昼下がり、すれ違う人たちがロゴ入りのカップを片手にしている姿を見ると、その香りに誘われ、つい立寄りたくなってしまいます。

色彩のフィールドワーク:もてなす緑色彩計画家・加藤幸枝sidewalk standコーヒー

コーナー面の手書き看板。ブルーの自転車がアクセントになっていました。

2015年にオープンしたこのお店はカウンターの隣に入口があり、通りから人の出入りや内部の様子を(ちょっと混んでいるな……等)伺うことができます。店舗は角地にあり、左右それぞれは別のお店やビルにつながっていて、外側から見ただけではどこからどこまでがコーヒー店なのか判断がつきません。そうした様子もまた、ちょっと店内を覗いてみたくなる一因となっているのではないかと推測しています。

店舗に向かって左側はアパレルショップですが、外観の素材と足元の緑、そしてコンクリートの舗装が連続性をつくり、あたかもコーヒースタンドの一部のような設えになっています。後で調べたところ、隣のアパレルショップとは同じ系列店とのことで、道理でまとまりがあるはずだと合点がいきました。

足元の緑はさほどボリュームがあるわけではないのですが、背景の壁がフラットで明るいため動きのある緑のフォルムが印象的に感じられます。加えて、壁面の上部に開かれた大きな窓面には、向かい側にある目黒川沿いのサクラが映り込み、歩道に奥行きと拡がりを与えています。

色彩のフィールドワーク:もてなす緑色彩計画家・加藤幸枝 中目黒の桜が映り込む窓

川沿いのサクラが映り込むファサード。

日本や中国には、遠くの山などの景色をその庭の一部のように取り込む「借景」という造園技法がありますが、この窓面には(意図的かどうかはさておき)川沿いの風景が借景され、どこまでもサクラ並木が連続する様が描き出されているように感じられました。
目に見える緑と、実際の姿を思い描きながら感じる緑。歩きなれた川沿いの景色が、ガラスの存在によってとても新鮮に見えてきます。

最近はこのコラムを書くために「もてなす緑」を意識して歩いているせいもありますが、こうした空間的なつながりや拡がりがまちなみに豊かな「ゆとり」をつくり出しているのではないか、と考えるようになりました。そしてもし自身がもてなす側の立場だったら、このような工夫や演出ができるのだろうか……ということが気になりだしています。このフィールドワークではまちの中からヒントを見つけだし、良いなと感じた要因を主に色彩の観点から言葉にしていますが、次第に自分でもこうした工夫や演出を実践してみたい気持ちが高まっています。

色彩のフィールドワーク:もてなす緑色彩計画家・加藤幸枝第11回測色日本塗料工業会(JPMA) J版 塗料用標準色見本帳 ポケット版

測色の様子。ほのかに黄味のあるライトグレーです。

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★★
全体のカラフル感 ★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。


加藤幸枝

加藤幸枝  かとう・ゆきえ色彩計画家

1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。