「ていねいな暮らし」カタログ

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『ku:nel』的な写真と余白

前回の記事の中で、『クウネル』を見ていくために忘れてはならないのは写真ではないか、という話をしました。今でこそ、ポラロイド写真のような質感を選びながら日常を撮って共有するInstagramが流行っていて、『クウネル』っぽい写真を手元でも楽しめるようになりました1。『クウネル』の独立創刊が2003年で、Instagramが2010年に始まりましたから、こういった日常写真は『クウネル』がリードしていると言うことができると思います。

創刊時から多くの写真家が『クウネル』の写真に関わっていましたが、なかでも2002年に木村伊兵衛賞を受賞した川内倫子氏は、写真と手記で構成された特集記事が組まれるなど、『クウネル』の「正方形写真文化」を印象づけた人物であると思います。川内氏はローライフレックスを使って6×6(正方形)の写真を撮っていくわけですが、「決定的瞬間」を切り取るというよりも、なんてことのない風景が太陽光にほのかに照らし出されている写真が多いことが特徴的です。

写真家のホンマタカシ氏は、写真史を説明する際に「決定的瞬間」―「ニューカラー(凡庸な日常を撮る)」という軸を用いて、それぞれに次のような特徴があるとまとめています2

『クウネル』の写真は、被写体が著名人ではないこともあり、上の表の「ニューカラー」の特徴をもつものが多くあります。ものづくりの現場を伝える記事でも、ともすると何が写っているのかがよくわからない、雰囲気を撮ったとしか言いようのない写真もありますし、食卓風景を撮る際にも真上からまんべんなく写された「等価値」な写真が多く用いられていますよね。日常の断片を撮り、そこにどのようなストーリーが広がっているのかを想像する余地のある写真とも言えるでしょうか。たとえば、こんな風に。

Jun Abeさん(@jun_abe)がシェアした投稿

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そして、この「余地」も単なる隠喩ではなく、『クウネル』の誌面にも「余白」が印象的に使われています。暮らし系雑誌の特徴は、何と言っても誌面が「白い」こと。昔は白物家電とも言われましたが、暮らしをむやみに脚色しない『クウネル』の姿勢は、誌面をシンプルに見せ、余白を重視するデザインへとつながっているようです。

(1)『クウネル』ではなく『KINFOLK』でありますが、『KINFOLK』っぽい撮り方をしているアカウントを集めたTumblrアカウントが山崎まどか氏のTwitterで紹介され、話題になりました。
参照:http://thekinspiracy.tumblr.com/
このことについては、速水健朗・おぐらりゅうじ (2017)『新・ニッポン分断時代』、本の雑誌社でも紹介されています。
(2)ホンマタカシ(2009)『たのしい写真―よい子のための写真教室』、平凡社、p.33の表を参照。
表内の()表記は筆者による補足。

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。