[びお考] 赤ちゃんにやさしい家

ネットには、あまりにも多くの情報が溢れています。住まいのことも例外にあらず。膨大な情報の波にまぎれて、大切なことを見失っていないだろうか。そんな疑問から、「びお」のもつ、住まいと生活の視点からいろんな人に聞いてみます。

 

「家を建てる理由ランキング」で、常に上位にあるのが「子どもができる(できた)」という理由です。それって、今の住まいが赤ちゃんにとって良くないってこと? 狭いから? 暑いから? 寒いから?
せっかく赤ちゃんのために住まいを考えるのなら、どんな家がいいんだろう。
赤ちゃんが感じる快適は、私たち大人と同じなんだろうか?
そんな疑問をいだいて向かったのは、北海道・札幌市立大学。この大学では、デザイン学部と看護学部が併設されているため、赤ちゃんにとっての住まいを「建築環境デザイン」と「助産」という両テーマから同時に考えることができる環境にあります。ここなら問いを解くヒントが得られるのではないか。そんな予感を持って、三人の先生を訪ねました。

Vol.3  妊婦さん受難の時代

前回は、表面温度をコントロールするということ、それにつながる「入れ子構造」というお話を伺いました。おむつを取り替える、ということも、表面温度の調整でもあったのですね。お母さんである妊婦さんは、「冷え」で悩んでいます。これの改善なくして、赤ちゃんにやさしい家はない、のかもしれません。

 

現代生活は妊娠・出産に適さない?

佐塚 赤ちゃんもさることながら、最近の妊婦さんが冷えている、ということでしたが。

大友 昔の人は水を汲むために10kmとか20kmとか歩いていく、という動作が多かったと思うんです。

佐塚 昔って…、えらく昔ですね(笑)。

大友 まあ、だいぶ前ですけど。そのころは、運動をしていたので、子どもを授かっても腰痛になったり、ということが少なかったんですよね。
それが、今は蛇口をひねれば水が出るし、ちょっと歩けばバスや電車に乗れるとか、便利になってきました。便利でなかった時代と今とでは、女性の身体が変わってきているんですよね。

斉藤 筋肉が少ないから、熱の産生が少ないんだ。

妊婦さんと冷え

大友 そうなんです。妊娠すると、出産に備えて骨盤が緩むホルモンが出るんですが、そうなると筋力不足で子宮が支えられなくて、腰痛が出たりだとか、胎内環境が整わないことがあったりします。
赤ちゃんが子宮の中でうまく「体育座り」が出来ない環境になって、変な姿勢のまま産まれてくるので難産になったり、大きくなっても手足が冷たかったり、便秘になったり。そんな子が増えているようです。
あとは、お母さんがスリムな体型で、赤ちゃんの体重が少なくなっている、ということもありますね。

斉藤 最近の子どもって、背が高くて、スラッとしていて、脚が長くて、「ドカベン」みたいな男の子、あまり見なくなったよね。
昔は学年に一人くらいそういう子がいたし、女の子もいろいろな子がいて、それが成長の段階でいろいろ変わっていくわけだけど、今はほぼみんなスリム・スマートになっちゃって。
人間の身体性みたいな視点から見ると、一様化してきていて危ないんじゃないか、なんて思ったりもするんだけど。

大友 骨盤の形も変わってきています。骨盤には、女性型、男性型、扁平型、類人猿型と4種類あって、女性型が、いわゆる安産型の骨盤です。この女性型が減っていて、妊娠・出産しづらい、ということもあるようなんです。
あとは、中学・高校時代の、成長発達段階の運動などが影響します。激しいスポーツを早い時期からやると、骨盤底筋がガッチリと骨盤を押さえてしまって、鍛えられている分、骨盤が緩みにくくてお産が大変ということもありますね。

佐塚 筋肉不足もいけないけど、筋肉の種類によっては鍛えすぎもいけないわけですか。農作業とか家事労働とか、そのぐらいの運動がお産にも適していたんですかね。

渡邉 あとは、日本の場合は和式のトイレが大きいですよ。あれは、毎日安産体操を自然にやっている、というようなものですから。下半身の血の巡りもだいぶ良くなっていたんじゃないでしょうか。最近の妊婦さんのお腹を触ると、冷たいですからね。

和式トイレ農作業

昔の農作業や和式のトイレは、妊娠・出産に適した筋力トレーニングだった。

斉藤 え、お腹が冷たいの?

渡邉 お腹って、身体の中心にあるし服を着ているし、温かいというイメージがありますが、冷たいんです。汗をかいて冷えた、とかではなくて、お腹自体が冷たいんです。

斉藤 じゃあ当然、赤ちゃんのいる環境自体も冷たいんですね。お母さん身体のセットポイントが低いから、胎内環境も低温になる、と。
いま、子どもたちも低体温の子が増えていますしね。想像温度の研究で感じるのは、同じ環境にいても不満が出る子とそうでない子がいること。それは遺伝もあるかもしれないけれど、胎内環境を含めてこれまで過ごした環境がそういう差をつくっている、ということもありますね。
最近は甲子園球児でも熱中症になったりしますしね。
さっきのエアコンの話のように、子育て雑誌が、変化の幅のない環境を推奨している結果が、結果としてそういう胎内環境も含めたものをつくり出してしまっている可能性がある。

佐塚 だとすると、いわゆる「快適な家」を作っていることは、長い目で見ると、種が弱っていく、ということにもなるんでしょうか。

斉藤 自分の周囲環境温度の振れ幅がある程度ないと(想像しうる)目盛りが育たないのは、想像温度の研究から感じますね。

渡邉 冷房・暖房をつける、つけないとか、そういったことも含めて、赤ちゃんの様子を見て判断してくれるのだったらいいけれど、室内はこの温度にしなさい、というだけでエアコンをつけて、でもその風が赤ちゃんに直撃するようなことでは良くないですよね。

佐塚 自分の手や目、センサーをつかって判断する、ということですよね。

まとめ
適度な筋力が、妊娠・出産には必要ですが、現代社会ではむずかしくなってきています。快適、という名の均質な環境も、人を弱くしているのかもしれません。適度な周囲環境温度の振れ幅が、自分の目盛りを育ててくれるんですね。
次回は「円山動物園のオランウータン」。おい、赤ちゃんはどこ行った? などと思わずに、読んで下さいね。10月4日公開予定です。


佐塚昌則  さづか・まさのり

1971年静岡県生まれ。町の工務店ネット常務理事/手の物語常務取締役。町の工務店ネット発足当初から、地域工務店と共に歩み、現在は「自然室温で暮らせる家」を伝え歩く。趣味の料理をしているときが、心が一番落ち着くとき。

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