びおの珠玉記事

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土潤溽暑・曝涼

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2014年07月28日の過去記事より再掲載)

猫と土潤溽暑

大暑の次候、「土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)」を迎えました。

いよいよ夏本番です。
「土用の丑」も夏の風物詩ですが、土用が明ければもう立秋です。灼熱の秋を想像すると気が滅入ります。

「土用」は、夏土用(立秋前)だけでなく、立春、立夏、立冬の前にそれぞれあります。二十四節気とは違う雑節の一つで、五行説にもとづいたものだといわれています。

五行では、四季それぞれに、春(木)夏(火)秋(金)冬(水)をあてはめていますが、これでは五行説の五大元素、木火土金水うちの「土」の行き場がありません。そこで、それぞれの季節の終わりの十数日間を、土気として扱った、というのが、土用のいわれです。

五気
五色
五方 中央 西
五季 土用
五味
五臓


せっかく五行の話が出ましたので、すこし続けましょう。五行をもとにした中医学では、夏バテは「暑さ」「湿(体内の水分)」「木の不足」の三つが原因とされます。これらの要素と本人の体質によって、夏バテは以下のように分類されます。

陰虚証
体を冷ますための水分が不足し、火照った体の熱を冷ませない。
湿因証
必要以上に体内に水分がたまってしまう。
気虚証
暑さそのもので気が消耗し、失われている。


中医学を元にした薬膳では、陰虚証に対しては、体を冷ます役目(補陰)のある食材を、湿因証に対しては、不要な水分を体外へ排出する(利湿)食材を、気虚証にはエネルギーの元である気を増やす(補気)食材を用いて対応します。

夏バテ、という言葉ひとつとっても、決してひといろではありません。結果には原因があって、それぞれに応じた対応が必要ということです。

報道では、室内でも熱中症にかかることがある、エアコンを使って適切な温度を保つように、水分を十分とるように、としきりに呼びかけられます。
けれど、人によってはそれで冷えすぎることもあれば、体には余計な水分がたまっている場合もあるのです。

住まいの夏バテ

エアコンを使って快適な環境を…と思いきや、住まいには思わぬことが起こることがあります。
通常は冬季に起こるはずの結露が、夏期に起こってしまうのです。

結露は、水蒸気を含んだ空気が冷やされ、飽和水蒸気量に達することで起こります。冬の窓ガラスの例がわかりやすいですね。
どうしてこの結露が夏に起こるのでしょうか。ひとつは、夏の空気には多量の水蒸気が含まれている(湿度が高い)こと。もうひとつは、エアコンによる冷却です。

冬のように室内外に激しい温度差がなくても、夏の外気の湿度は高いため、少し温度が下がれば飽和水蒸気量にすぐに達して結露します。

冬の結露と違うのは、「土潤溽暑」があらわすように、気温も相対湿度も高いこと。多くのカビは、20〜30℃ほどの温度と、水分を必要とします。ダニの多くも、このぐらいの温度と高湿度を好みますから、カビ・ダニにとってはまたとない繁殖のチャンス。

カビやダニは、シックハウスの原因になるといわれています。

いわゆる「カビ臭い」というのは、カビ由来の揮発性有機化合物(Microbial Volatile Organic Compounds、MVOC)が原因ですし、ダニは吸入等によるアレルゲンとしても知られています。

カビ、ダニを発生させないためには、結露を出来るだけ生じさせないこと、換気を十分に行うこと、湿度を低く抑えること、栄養を与えないこと、などが対策となります。

よい材料やよい設計、ただしい換気計画が重要なことはもちろんですが、室内に発生する湿気の量や掃除の頻度など、生活のスタイルに大きく左右されます。カビ・ダニは、出るべくして出る、と思っておいたほうがよいかもしれません。

カビ

曝涼

かつての日本家屋は、「夏を旨とすべし」といわれたように通気を重視していました。分厚い土壁や表しの構造材などが調湿し、風通しによってカビの繁殖を防いできました。

さらに、しまってある衣服や書物などをカビや虫害から防ぐために、この時期に虫干しを行うのが習慣になっていました。土用干し、とか、曝涼、と呼ばれています。

虫干し

虫干し


寺社仏閣などでは、この風習が、点検・公開を兼ねています。現在は10月末から行われている正倉院展も、曝涼による展示です。

曝涼のいいところは、つまり品質保持と在庫管理が一緒になっているところです。
家庭では「虫干し」をしている様子をとんと見かけませんが、いわゆる「断捨離」の一つにも、曝涼はいい方法ではないでしょうか。