びおの珠玉記事

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森里海から・川端(かばた)

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2013年11月17日の過去記事より再掲載)

滋賀県高島市新旭町針江地区の川端

滋賀県高島市新旭町針江地区には、豊富に湧き出る安曇川(あどがわ)水系の伏流水を活かした「川端(かばた)」と呼ばれる人里の生活環境が今でも残っています。私は3年前、2010年の11月に訪れる機会があり川端巡りを体験してきました。川端は2000年前(弥生時代)には既に存在していたと言われており、2010年でも108軒の家で実際に川端が利用されているそうです。

石段の下に壺池苔むした壺池内川端

川端は母屋の内部にある「内川端」と別棟や屋外にある「外川端」とに分けられます。井戸から湧出した地下水(その場で地上に湧いている場合もある)はまず「壺池(つぼいけ)」と呼ばれる小さな池に注ぎ、そこから溢れだして壺池の周囲にある「端池(はたいけ)」に注ぎます。端池にはコイなどの比較的大型の魚が飼育されています。端池の魚は本来、鮒寿司の材料になるニゴロブナが主だったにちがいないと私は想像しています。そして、端池は集落内の水路と繋がっており、端池から溢れた水は水路に出て集落の中央を流れる針江大川(はりえおおかわ)へと流れ込みます。針江大川は最終的には、もちろん琵琶湖へ注ぎます。

川端の水が循環する仕組み 川端の仕組み(針江生水の郷WEBサイトより)

壺池の水

壺池の水は飲料用や料理用として使われ、端池では食べかすや野菜くずなどを魚が食べてくれます。使用済みのお皿や鍋も端池に沈めておくときれいに掃除してくれるというわけです。水路や針江大川にはオイカワ、タナゴ、ヨシノボリ、サワガニ、カワエビ、シマドジョウなど数多くの生き物が生息しており、ここでも食べ物屑は掃除されていきます。水路や針江大川には鮎やビワマスなどの希少な魚も遡上してくるらしく、琵琶湖固有種のセタシジミ(絶滅危惧Ⅱ類[VU])も針江集落では通常的に見られるそうです。このような壺池、端池、水路、針江大川、琵琶湖という水系の上に成立する生態系は非常に巧妙なバランスを保っており、人間の食べ残しによって水が腐るというようなことはありません。

端池の魚水車

人の生活の営みと川、湧水、琵琶湖といった自然の恵みが人間の知恵によって見事に結びついているのがこの川端のシステムです。ヒトが生活に必要な水を得るために作った水路や川端が生物にとっても多様で豊かな環境を生みだし、そこに生物多様性が育まれています。まさに人が自然と共生している様がここには存在しています。人間が積極的に関わる理想的なビオトープ環境が形成されているのです。偉大な琵琶湖の水環境、水辺景観として使い続けて欲しいものです。元来ヒトも生態系構成要因の一つなのですから・・・。

壺池壺池鯉と川端

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。