季節をいただく

すいか糖 西瓜 すいか スイカ

すいか糖

灼熱の極暑、各地の大雨の爪痕も癒えぬままの日照り続きに、大地もからだもカラカラ。汗で出た水分を補うにはスイカが一番。今年は、ご近所さんの畑では収穫量が少なく探していたところ、無農薬で育まれた小玉のスイカ「姫まくら」があるとのこと。早速、馬郡、マルサ村松商店さんのスイカ畑を訪ねると、海に近い砂地の畑、繁った葉影に姫まくらがゴロゴロ。産毛がたっぷりのつる先を延ばして花も咲かせている。片手で掴めるほどの頃合いの姫まくらをふたつ頂いた。
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隣の丁寧に手入れされた畑は、収穫間近の早生の落花生。「まだ、みるいよ」と、試し掘りしたばかりの落花生の塩茹で。みるいとは遠州地方の言葉で、若い、ゆるいなどの意味、その通りの初々しい美味しさ。その場で落花生の株をいくつも掘り上げ、枝葉付きの束をひと抱え頂いた。翌日からの講座の食材に使うと、畑のままの姿と土の香り、茹で上げた美味しさはとても好評だった。
すいか糖 西瓜 すいか スイカ

持ち帰った姫まくらを二つに割る。皮が薄く赤味の詰まった断面は、中心部から三方に筋が伸び、その筋に沿って包丁を入れると種には当たりにくい。三本の筋はそれぞれ二手に分かれて渦を巻き、その先に種を宿す部屋ができる。自然のいのちの造形は見ていて飽きない。半分に割ったスイカを片手に持ち桂剥き、さいの目に刻み厚底の鍋に入れてコトコト煮る。切れ端を口に入れると、きめ細やかなシャリシャリした味わいと甘さ、止まらなくなりそう。
すいか糖 西瓜 すいか スイカ

すきっ腹にスイカをたべると、小一時間で胃がしくしく痛むことがあるので、火を入れてスイカ蜜をつくることにした。先日、訪ねたあずみの松川村にて、久しぶりに頂いたスイカ蜜、濃厚な甘さに大地の力が宿っており、まるでお薬のようだった。幼い頃にも、お手当にと食べた覚えがある。スイカに火が入り、透き通るような感じになったので食べてみる。温かいスイカ、まろやかでとても美味しい。
すいか糖 西瓜 すいか スイカ

少し煮詰めてザルで漉し分ける。鮮やかな赤の実はそのまま瓶に詰め優しい甘さのスイカ煮。汁は煮詰めて、甘い香りと濃い赤のトロトロになればスイカ糖。さらに煮詰めて、深い色と濃厚な香り、蜜のような粘りが出ればスイカ蜜。今回は、煮詰めている途中で、香りが深まったので、赤いスイカ糖にすることにした。姫まくらひとつからコップ1杯のスイカ糖。
すいか糖 西瓜 すいか スイカ

スイカ糖は、ほんの一滴で舌の奥まで甘さが広がり、ひと匙も口に含むと、頭の頂まで甘さが昇り詰めるほど。以前、連れられて伺った目黒の料理屋にて甘味で美味しく頂いた記憶が蘇った。あまりにも甘いので、スイカ煮と緑と黄のキウイをミキサーにかけ酸味の効いたスムージーに、ほんのひと匙のスイカ糖を載せ頂くと、のど越しに染み渡った。からだも大地も、ほど良い潤いを保てますように。

西瓜:マルサ村松商店(遠州馬郡)、キウイ:ニュージーランド、絵皿:鈴木道子
すいか糖 西瓜 すいか スイカ

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。