森里海の色
柿木村の一輪挿し「ヤブコウジ」

 

藪柑子、十両

 

白一色の山野辺には花が見当たらなくて、赤い実ばかりが登場することになるけど仕方ない。

藪柑子はその赤が縁起が佳いという事で正月のお飾りにも使われて目出度い木なのだ。
その昔には盆栽のように好事家の間で取引されてバブリーな価格が付いた時代もあったらしい。
いつの世もマネーゲームは人の心を弄ぶのですね。

そう云えば有名な落語「寿限無」で日本一長い名前の中にも登場していた。
(ジュゲム ジュゲム……藪の柑子のぶら柑子……云々)

アヤノコウジはロックシンガーやコメディアンで有名だけどヤブコウジはあまり聞いたことが無い。
「好きなもの苺 珈琲 花 美人 懐手して宇宙見物」
僕の好きな歌の作者、物理学者であり俳人の寺田虎彦は筆名を藪柑子と名乗った。
虎彦らしいなぁ。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。