森里海の色
柿木村の一輪挿し「スイセン」

水仙

うつむき加減の花姿は水面に映る我が身を見つめるギリシャ神話の美少年ナルキッソスの化身なのだそう。

なるほど、すらりと伸びた茎の先に白い花弁と黄色の花冠が清廉で美顔だ。

小春日の柔らかな陽射しの下、寒村の路傍で風に揺らぐ姿も佳いし寒風吹き付ける海端の群生地に凛と咲く二百万の水仙もまた美しい。
(石見地方益田市の日本海沿岸の群生地は水仙の里として有名だ。その水仙を眺める丘に僕は何件かの住宅を設計させて頂いた。)

お気に入りのいつもの細身の一輪挿しに活けた。
玄関の中が甘い香りに包まれてふわりと温かな気持ちになった。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。