森里海の色
柿木村の一輪挿し
「ナデシコ」

撫子 なでしこ

ナデシコと言えばもう言わずもがなの大和撫子だ。
誰が何と言おうと撫子は日本人の心に確固たる地位を確立していた。

綺麗な言葉遣い。
控えめな仕草、気丈さを感じさせる凛とした立ち振る舞い。
常に男性を立てる物腰。
良識と教養。

裏庭の花壇に植えたナデシコが花を付けた。
白い花弁に薄く恥じらうようなピンクが差している。
こんなにも揺るがないイメージを持った花も珍しいのではないだろうか。

とは言えなのだ。

現代においてはこんなイメージを女性に求めたとしたら差別だ、ジェンダーだと非難ごうごうだろう。
職場や社会で活躍している女性の皆さんは溌溂として頼もしく感じる方がとても多くなった。
確かにナデシコJAPANの皆さんは強く逞しくピッチを駆け巡り、堂々と世界に挑んでいらっしゃる。

大和撫子に失われた理想像を追い求めるのはやるせなきオトコの幻想なのだろうな。
控えめな花を見ながらそんな事を思った。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。