森里海の色
柿木村の一輪挿し「キンカン」

金柑

この季節、炬燵や鍋の主役の蜜柑や柚子の出番に比べて金柑は存在感が薄くて肩身が狭いのかもしれない。
ところがどうして、小さな体に似合わせず人間にとってはとても薬効たっぷりの「小さな巨人」なのである。

風邪を引いた時に母親が甘露煮にして呑ませてくれると喉もイガイガがスッキリとした。
(虫に刺されたりした時に痒み止めで塗ったのは同じ名前の塗り薬だけど成分は全く違うもの。)

ガルテン畑の隅に植えた金柑の実を捥ぎ取り、生のまま齧ると皮の苦みと実の酸っぱさが妙に良い頃合いで大人になった今でも好きなのだ。
ちょっと洒落て白ワインコンポートなんぞにするとまた佳いお酒の共になったりして長い冬の夜が愉しめる。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。