森里海の色
柿木村の一輪挿し
「キキョウ」

桔梗 ききょう

この時季の代表格の花、桔梗が咲いた。
透き通る青紫の花弁はやはり高貴と言う形容がピタリだ。

「なにもなにも、紫なるものはめでたくこそあれ、花も糸も紙も」
枕草子の一節でも詠まれている。

妖艶で美しい色合いはそれでいて空の色にも海の色にも通じ人々の心を深く捉えるのだろう。

庭の片隅で驟雨に濡れていたのを青備前の徳利に一輪挿した。
気高くそれでいて凛とした姿はどことなしか孤高の女剣士を想わせる。

そんなことを思うたまゆらの午睡。
九月の風と雨上がりの光が柔らかくて優しい。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。