フィンランドのサウナ文化

ところかわれば

森弘子

前回の記事では、以前住んでいたフィンランドへこの夏に再訪し、友人夫妻のサマーコテージに訪れたことについて書きました。その友人夫妻のサマーコテージには、フィンランドの文化の代表格ともいえるサウナがあります。フィンランドのサマーコテージとサウナは切っても切り離せないもの。ほとんどのコテージにサウナがついていると言っても過言ではありません。今回はそのコテージのサウナを例にあげながら、フィンランドのサウナ文化についてご紹介したいと思います。
夫妻のコテージのサウナは同じ敷地内の主屋・離れから歩いて数十メートルの湖脇に佇んでいます。

フィンランド サマーコテージ サウナ ところかわれば

サウナ小屋前から湖をのぞむ。ボートで奥に数百メートル進むと大きな湖へとつながっていく。サウナに入った後に桟橋から湖へ入り、体の火照りを落ち着かせる。

このサマーコテージのサウナは、外から入るとすぐ着替えスペースを兼ねた前室があり、左手にサウナ後に休憩をするためのリビングルーム、正面にサウナ室があります。外部には庇のついたベランダがあり、涼んだり、薪を保管したり、バスタオルを干したりすることができます。

フィンランド サマーコテージ サウナ ところかわれば

屋根の上にある煙突をさかいに、右手がサウナ室、左側がリビングになる。サウナ小屋の右手の小道が奥へいくと母屋へ、手前へ向かうと湖がある。

このコテージのサウナは薪を使って火を起こし、サウナ室を温めます。火を起こし、十分にサウナ室が温まるまで約2時間程度かかります。サウナストーブの横にはお湯を沸かすためのタンクがあり、下部にサウナストーブ同様に薪で火を起こしてお湯を温める機構があります。サウナ小屋内に水道はなく、湖から電動で水を汲み取り、タンクに水を入れます。このお湯を湖の水で割って、手桶を使って体を洗います。

フィンランド サマーコテージ サウナ ところかわれば

正面がサウナベンチ。一番上の段にこちらを向いて座る。ベンチの左手前にある石が乗っているものがサウナストーブで、その石に水をかけ、サウナストーブからの熱気を浴びる。下部の小窓に薪を入れ、火を起こす。煙突は壁に埋め込まれている。サウナストーブの手前がお湯を沸かすためのもの。すのこの下の床はコンクリート。照明は暗めなのが通常。

フィンランドのサウナの歴史については、現在でも多くの研究がなされており、決定的な起源はわかっていませんが、およそ2000年前ごろに始まったのではないかと言われています。元は地面に穴を掘ったマーサウナ(MAASAUNA、地中のサウナの意)から始まり、その後スモークサウナ(SAVUSAUNA、煙のサウナの意)という、煙突がないサウナ小屋に薪で石を熱し、熱した煙を内部に閉じ込め、その後外に排煙してから残った熱でサウナに入る、というものです。その後煙突ができ、近代になってからは電気式のサウナが導入され、安全性も伴って家庭に普及していきました。
ちなみにフィンランドのサウナは、日本で認知されているようにひたすら汗をかくことが目的ではなく、家族団欒をしたり、リフレッシュやリラックスすることが主な目的です。音楽はかけず静かに過ごし、照明も暗めの設定、ましてやテレビはありません。入浴中は静かに周りの人との会話を楽しんだり、ゆっくりと過ごします。

サマーコテージや家庭にあるサウナは基本的には家族ではいるものなので、男女一緒に裸で入ります。街中にあるパブリックサウナは男女別になっているものが多く、裸で入ります。近年は観光向けに建設されたものもあり、その場合は男女共用となっていることもあり、水着を着用して入ります。

サウナの入り方は、人それぞれ「流儀」のようなものがあり、「これ」という正式な方法はありません。ただ、しいて基本的な入り方を定義すると:

1)着替えて裸でサウナ室に入る
2)サウナベンチに座り、サウナストーブの石に水をかけ、ロウリュ(löyly)を起こす
3)体が十分に温まり汗をかいたら、外に出て涼むか、湖などで泳いで体の火照りを落ち着かせ、同時に十分に水分をとる
4)サウナに戻り、体に水を流す
5) 2)〜4)を繰り返し、十分だと感じたら汗をきちんと洗い流し、汚れを落として、リビングで休む

ちなみに同じ家族の中でも、入り方やロウリュの起こし方(温度、湿度に影響)のこだわりは異なることもあるくらいですので、十人十色の入り方があって当然ですね。

サウナ後はリビングにある暖炉の前で飲み物を飲んでリラックスしたり、火を起こした暖炉でソーセージ(フィンランド語でmakkara(マッカラ))を炙って食べたりして過ごします。(これが最高!)

フィンランド サマーコテージ サウナ ところかわれば

サウナ小屋のリビングルーム。中央の暖炉でmakkaraを炙って食べる。暖炉の煙突はその裏にあるサウナストーブ等の煙突と合流する。

ちなみに現在はこのサマーコテージのサウナのように湖に近接してサウナ小屋を新築・建替をすることは法律上禁止されています。(現状の法律では湖から100m以上離さなければならない) 湖の水質汚染防止が法律の主旨ですが、例えば火事になってしまった場合、建替も不可のため、元の位置にサウナ小屋を持つことは不可能になります。サウナで汗をかいて、すぐ湖に飛び込んで体を冷やす、というのが醍醐味ですが、それもなかなか自由にはできなくなっているのが現状です。

フィンランドとサウナは切っても切り離せないもの。もしフィンランドに訪れる機会があったら、ぜひ時間をつくって体験してみては?なかなか個人のコテージのサウナは味わえないかもしれませんが、観光の合間に気軽に立ち寄れるパブリックサウナも近年増えています。また、ヘルシンキ近郊でもサウナ付きのコテージをairbnbなどでレンタルすることもできます。その際は是非ゆっくり、最低でも2泊3日とって、フィンランドのコテージライフを体験してみてください。特にヘルシンキ市内からバスで行くことのできる国立自然公園のNuukusio(ヌークシオ)には、宿泊できる施設もあります。自然公園にはトレッキングのできるルートも整備されていますので、合わせてフィンランドの豊かな自然を味わってみてはいかがでしょうか?

◆ヘルシンキ市内および近郊で入れるパブリックサウナ:

市内のどまん中にあるもの、少し離れているけれどアクセスのしやすい森の中にあるサウナ。ヘルシンキには、観光の合間に入れるサウナがたくさんあります。

—Löyly
2015年5月にオープンし、建築をはじめとした様々な賞も受賞しているパブリックサウナ。市内からバスで10分程度でアクセスできる。レストランとバーも併設されている、観光客向け。男女共用で水着が必要。要予約。水着レンタルあり。
設計:Avanto Architects

—Allas
こちらもLöylyと同時期にオープンしたサウナで、ヘルシンキの観光の中心部の海沿いにあるためアクセスは抜群。シープール(海水をとりこんだプール)もあり、都市のランドスケープの真ん中で泳ぐという、他では味わえない体験ができます。サウナが併設されていて、男女共用・男女別の2種類のサウナが楽しめます。予約不要。
設計:Huttunen-Lipasti-Pakkanen Arkkitehdit/Architects

—Lonna sauna
Allasのある港から出ているフェリーに乗ってアクセスする、Lonnaという小さな島に2016年にできたサウナで、ヘルシンキ中心部から簡単にアクセスできるにもかかわらず、自然の中でサウナを楽しめる。別棟にあるレストランの食事もおいしいので、サウナと合わせて半日かけて行くがおすすめ。
フェリーの運行時間等に注意。サウナは男女別。要予約。
設計:OOPEAA

—Kotiharjun Sauna (フィンランド語のみ)
Kallioにある老舗のパブリックサウナ。昔は市内にたくさんあったパブリックサウナも、近代に家庭への電気サウナの普及で急速に減っていったが、このサウナは今も健在。昔ながらのパブリックサウナを味わえる。飲み物持ち込み可。サウナは男女別。予約不要。

—Kuusi järvi
市内からバスで30分ほどのヴァンター空港のそばにありますが、Löylyができる前は唯一ヘルシンキ近郊でスモークサウナが楽しめるパブリックサウナでした。目の前に湖があるので、冬はAvanto(凍った湖に穴を開けてサウナ後にそこに入る)を楽しむことができます。夏はピクニックと湖の一部を囲ったプールを楽しむ人であふれます。自然の中のサウナを楽しみたい方にオススメ。男女共用。水着が必要。予約不要。

◆Nuukusio近郊で宿泊できる施設一覧:

https://www.haltia.com/en/visit-haltia/accommodation-in-nuuksio/
※Nuukusioへの公共交通機関は夏季と冬季で運行本数や行き先が異なるので注意。