フランスの不動産の省エネラベリング

ところかわれば

森弘子

パリの街を歩いているとたまに見かける不動産屋。パリの不動産屋の店頭は窓面に広告が掲載されていて一見日本と同じように見えますが、日本の広告にはないあるちがいに気がつきます。

ところかわれば DIY アパルトマン フランス 引越し

フランスの不動産屋の典型的な店頭の様子。日本の不動産屋と同様に物件の図面や写真、面積、設備などが掲載されている。

少し小さいですが、上の写真からもわかる各広告右下のカラフルな棒グラフのようなもの。これはアパルトマンのエネルギー消費度の表示です。この表示は、『EU(European Union、欧州連合) Energy Labelling』と呼ばれ、電球をはじめとした冷蔵庫やエアコンなどの電化製品のパッケージなどに記載されていて、EU圏内では共通の指標となっています。この表示をもとに、消費者は環境に配慮した商品かどうかを判断し、購入することができます。

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LED電球のエネルギー消費度の表示。不動産屋さんのアパルトマンのエネルギー消費度の表示と同じデザインで記載されている。

この『EU Energy Labelling』は、欧州連合議会により、まず2010年にDirective(指令:EU加盟国の政府等が各国でどのような方法で措置を取るかを決定できる)として、ついで2017年にRegulation(規則:EU加盟国の政府等に対して直接的な法的拘束力を及ぼす)として制定された、冷蔵庫やエアコンなどの家電製品や電球、車などにも表示が義務付けられている、エネルギー消費量の度合いを示すラベリングのシステムです。主に、製品のエネルギー消費度の表示は、最も消費量の少ないレベルA(緑)から最も多いG(赤)の7段階に設定されています。

店頭の商品に掲載されるだけでなく、インターネット上のウェブショップなどでも表示が義務付けられています。近年Aよりエネルギー消費量の少ないA+、A++、A+++のレベルも追加されました。レベル分けの基準は冷蔵庫、車、電球など製品それぞれによってエネルギー消費量が異なるため、製品カテゴリ別に設定されています。

フランスでは2007年より不動産の物件情報に建物のエネルギー分類の言及が義務付けられました。これはLe diagnostic de performance énergétique (DPE、エネルギー性能診断) と呼ばれ、建物のエネルギー消費量と温室効果ガス排出量を示します。詳細には、
・ 建物の設備
・ 2つのラベル(エネルギーと気候)
・ 省エネルギーのためのヒント
・ 推奨される工事事項(断熱、複層ガラス化など)
の4つの項目が物件情報書類に記載されますが、この2つのラベルのうちのひとつがエネルギー消費度のラベルです。このエネルギー消費度は、年間・単位面積あたりの建物のエネルギー消費量(暖房、給湯、エアコンなど)(kWhEP / m².年)で算出されます。ラベルAは節約型住宅に対応し、ラベルGはエネルギー非効率な住宅に対応します。

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右下がエネルギー消費度のラベル。多くのパリの古いアパルトマンはE〜Gレベル。

エネルギー性能診断は10年間有効で、専門の診断士により数値が決定されます。2年以下の仮設建築物や床面積が50㎡以下の独立した建物、歴史的建造物などは対象になりません。
このラベルは単にエネルギー消費度を購入・賃貸予定者へ情報提供するだけのものであり、販売者へ数値を変える要求をすることはできません。また、パラメータ(住居の住人の数、年によって変動する気温、暖房効率など)の変動がエネルギー収支の結果を大きく変える可能性があるため、あくまで購入・賃貸検討の際の情報提供を目的に使用されます。

パリ市内に多く見られる19世紀に建てられたオスマン様式のアパルトマンは建設から200年が経っているものが多く、既存の設備等が古いためエネルギー効率が悪く、パリの不動産屋の店頭を見てみてもほとんどがE〜Gの表示です。しかし、近年新しくパリ市内に建てられる建物もエネルギー消費を抑えた環境に配慮した設計になっており、不動産屋の店頭の広告も中にはよく見るとC以上のエネルギー消費量の低いものも少なからず見つかります。

複雑な建物のエネルギー消費計算もこのように一目見て一般の消費者にもわかりやすいようにラベル表示化されていると、購入や賃貸の際に判断しやすいのではないでしょうか。洗濯機や電球などと同じラベルの仕様なのも日頃目にするものなのでわかりやすく、検討項目に入れやすいのではないかと感じました。