「設計が上手くなりたい!」に丁寧に応える
〜「村篤設計塾2018」レポート

びお編集部

考えるだけではなく、体感を伴う

マンツーマン指導に最適な少人数制

マンツーマン指導に最適な少人数制


2日目は、座学からはじまります。
塾生にはこの3日間を前に、建設地・接道・法規制・住まい手の要望などをまとめた設計課題が与えられています。その課題に基づいた設計を行い、設計塾の一週間前までにプランを提出しています。提出するのは、配置図・平面図・並びに立面図や断面図です。
ここで、塾生は一人ずつ前に出て、自らのプランを施主に話すつもりでプレゼンを行います。それに続いて、村松さんがしっかりと赤を入れたシートを配布し、それぞれ講評を行います。

講評は、容赦なく辛口。まずは良いところを認めて、
「ここからだけど……。」
と変調。厳しい指摘に移ります。

「広い部分と狭い部分のバランスが悪い。」
「この立ち木は何? こんなちっちゃい窓から見るの? 設計者の『カッコイイでしょ』という意図だけで置いてあるなら、なくていい。」
「プレゼンが長い。もっと要点を絞って。」
短時間で、歯に衣着せぬ、的確な指摘と助言が与えられます。

村松さんの図面

村松さんの図面


「出入口、建具、窓、壁の差が図面上でわかりづらい。例えば、建具は青で描く、などとすると分かりやすい。」
「立面図に縦線や横線をやたら入れてごまかしてはいけない。プロポーションが良いかどうかの判断ができなくなる。」
初心者からベテランまで、その塾生のレベルに応じた指導が印象的です。最後に、村松さんのプランが発表され、昼食となります。

今回の事前課題に条件づけられていた土地や住まい手からの要望は、実は村松さんのお客さんの案件です。つまり、村松さんの実際の仕事が課題になっていたというわけで、最後に発表された村松さんのプランが建築中なのです。午後は、その「FUKUROI・FOREST HOUSE」(袋井市)に足を運びます。

「FUKUROI・FOREST HOUSE」で、びおソーラーの解説を行う、手の物語有限会社のスタッフ

「FUKUROI・FOREST HOUSE」で、びおソーラーの解説を行う、手の物語有限会社のスタッフ


塾生にとっては、google mapで場所を確認し、自分が考え抜いて設計をした、夢にまで出てきた土地。そこに姿を現しつつある村松さん設計の建物を、じっくりと体感します。小雨をものともしないほど、見学に熱が入ります。
内装はまだ仕上げ前ですが、プランは確認できる状態です。実施図面も、現場で閲覧することができ、細かい仕上げや材料についても質問が飛び交います。自分のプランと村松さんのプランが、頭の中を駆け巡っていたのではないでしょうか。
今回見学する建築中の建物3軒には、いずれも空気集熱式ソーラー「びおソーラー」が採用されていることから、販売元・手の物語有限会社の技術担当より、実地での解説も行われました。
塗り壁の仕上げが印象的な「浜松・夢双庵」

塗り壁の仕上げが印象的な「浜松・夢双庵」


そして、今回最後の建物見学は、「浜松・夢双庵」(浜松市)。この建物は完成間近のようです。急な斜面であり旗竿地である、決して好条件とは言えない場所ですが、斜面地ならではの眺望の活かし方、スキップフロアによるインナーガレージの扱いなど、そこここに工夫が見受けられます。

前日から、上棟直後、内装工事中、完成間近と、3軒の村松さん設計の住宅を、時系列順に見学したことになります。条件に応じて工夫して設計されたそれぞれの家で、やがて暮らしがはじまり、「街の語り部になる家」のように、住まい手とともに時を刻むのです。その暮らしが、永く、楽しいものであることを願います。
こうして2日目のプログラムも終了。最終日はいよいよこの設計塾の目玉、即日設計です。

設計塾を始めたきっかけ

旧見付学校(磐田市)に再現された、明治時代の小学校の机の上

旧見付学校(磐田市)に再現された、明治時代の小学校の机の上


村松さんの設計塾は、材木屋の社内研修に端を発します。普段材木を扱っているけど、設計のことは全くわからない。ぜひ、スタッフを対象に勉強会を開催してくれと依頼され、せっかく勉強会をやるならと、工務店や大工に声をかけ、座学と建物見学を年6回のプログラムで行う形で始まりました。

開催の頻度や内容は、回を重ねるごとに見直され、今では、2泊3日を2回(2部構成)という形に落ち着きました。塾生も参加しやすく、充実したプログラムを提供できるスケジュールだと、村松さんは胸を張ります。
即日設計も、夕方に課題を発表し、朝までに完成させるスタイルをとっていたこともありましたが、気持ちが休まらないという参加者からの声もあり、最終日の朝に課題を発表して、午前中いっぱいでプランを引くという形式に落ち着いたそうです。これなら、初日と2日目の夜はしっかりと親交を深め、深夜まで設計論議で盛り上がることができますね。

即日設計!

最終日。午前中は即日設計、午後は発表と講評となるため、この日は一日座学となります。課題が発表されると、会場は静けさに包まれ、カリカリと鉛筆を運ぶ音だけが聞こえてくる、張り詰めた空間と化します。

黙々と設計を行う塾生

黙々と設計を行う塾生


喫煙所で、
「ヤバイ、頭が働かない……。」
と、深呼吸する塾生も見られました。

課題発表時には方針がはっきりと示されるため、漠然とし過ぎることなく、設計に挑むことができます。
・きっちりと完成させなくても良い。
・この土地とこの要望で、どういったことが閃いたかが重要。
・「次世代の暮らしに適応できる新しい住宅」というキーワードから、「こういう世代にこういった提案がしたい」というところに重きを置く。
・ポイントはコモン(共用広場)。人の集まるところへ向けて開く。
・デザインや考え方を重視する。
このような方針です。

悩みながら、設計は進んでゆく

悩みながら、設計は進んでゆく


「事前課題の時は、敷地が大きいと難しいなぁと思ったけど、小さくても難しいね……。」
そんなことをつぶやきながらも、頭はフル回転している様子の塾生たち。

塾長の村松さんは、マンツーマン指導で塾生の元をまわり、話しかけながらアイデアを引き出していきます。
「ここに物入れはもったいないんじゃない?」
などと自分の違和感を伝え、
「僕だったらこうしちゃいます。」
といった具合に、一緒に解決策を探す姿勢です。

すべての塾生に、そのレベルにあったマンツーマン指導を行う

すべての塾生に、そのレベルにあったマンツーマン指導を行う


マンツーマン指導を見ていて、繰り返し村松さんの口から語られるキーワードに気付きました。
「もったいない」
という言葉。
無駄なく使い切る。全てを有効に利用する。
常に、限られた条件の中で行われる設計に必要なのは、なるほど、「もったいない」の精神なのですね。
塾生は皆、真剣なまなざし

塾生は皆、真剣なまなざし


またたく間に時間は過ぎ、昼休みとなりましたが、弁当に手をつける塾生はなく、黙々と設計の時が続きます。
昼休み終了10分前となり、やっと図面の提出する人が徐々に現れ、なだれ込むように昼食となりました。昼食明け、発表と講評の時間です。
まずは、村松さんのプランと模型が発表されました。みんなでプランと模型、村松さんの設計の意図、手順を確認した後は、いよいよ塾生のプレゼン・タイムです。
お客へのプレゼンのつもりで発表をする塾生

お客へのプレゼンのつもりで発表をする塾生


それぞれに、昨日の事前設計で受けた指導を活かしながら、自らのプランを発表していきます。
事前チェックができない村松さんも、その場で発表されるプランにすぐさま講評を行わなければなりません。緊張と緊張のぶつかり合いです。

そんな白熱した時間が流れ、三日間の設計塾は終了となりました。
即日設計の講評は、後日しっかりとチェックしたものが送付されます。細かく書き込まれた指摘やアドバイスは、塾生の気づきやスキルアップに繋がるに違いありません。

村松さんのチェックが書き込まれた図

村松さんのチェックが書き込まれた図


散会後、参加者は一様に憑き物が落ちたようなホッとしたような笑顔を見せ、いつものホームグラウンドに戻って行きます。

今回初めて参加したという塾生に話を聞いてみました。
「いやぁ、宿題をたくさんもらいました。継続していくことが大事なので、今日学んだことを続けていきます。」
「村松さんの言う『ごまかしのない』ところを目指します。事前課題は、準備もできるので、ある意味ごまかせる部分もありますが、即日設計ではそうはいきません。でも、それが正しい姿勢なんだな、と。ごまかさないという意識を持って、やって行きたい。」

即日設計に対する、村松さんのプランの模型

即日設計に対する、村松さんのプランの模型


今回の参加者には、「びおソーラー」の設計相談に無料で応じるという特典があるそうです。OMソーラー時代から携わってきた空気集熱式ソーラーを、これからも絶やすことなく広めてゆきたいという村松さんの想いを感じました。

村松篤式住宅設計の手法

わかりやすく色分けされた図面

わかりやすく色分けされた図面


村松さんの設計には、簡単に真似のできない鋭敏な感性が随所に散りばめられています。しかし、その道しるべはあくまで理論・理屈です。感性は個々に依存するものですが、理論・理屈は、真似をし、学ぶことができます。

住まい手の要望を考える。
敷地を考える。
プランニングをはじめる。
その整理の仕方・手順・考え方を、丁寧に解説し、導いてくれる設計塾。

村松さんのお話を聞いていると、設計などやったことのない私でも、なんだかそこそこのプランができるのではないかと思わされる節もあります。それほど、示す方向が明快なのです。

細部に至るまでの指導

細部に至るまでの指導


やりたいものがあって、それを組み立ててゆくのではなく、いろいろな制約があって、その中の「もったいない」を取り除き、自分の「最適解」に近づけてゆく。もちろん、最適解は一つではなく、それが設計者の個性でもあります。
最適解同士は、単純には比較できないがゆえに、自分の最適解をより魅力的にするために努力を怠らない。それが住宅設計者です。
どう魅力的にするのか、どのように最適解に幅を持たせるのか、各自の絶え間ない研鑽が求められます。

村篤設計塾は、村松篤という優れた設計者の最適解に触れ、その最適解の導き方を学ぶとともに、自らの最適解の幅を広げ、どうやって魅力をつくるのか、そして、その魅力をどのように伝えるのかまで含めて学ぶことのできる、かけがえのない場です。
塾生の誰も及ばないくらい流暢にしゃべり、聴くものを引き込む。この村松さんの話術・プレゼン能力も、自らの最適解を魅力的にする大きな武器であり、塾生は吸収すべきではないでしょうか。

常に頭がフル回転している印象の建築家・村松篤さん

常に頭がフル回転している印象の建築家・村松篤さん


天才すぎて学べない、学びにくい建築家もいますが、建築家・村松篤から学ぶことは多く、ある意味、設計の原風景的なところに連れ戻してくれる。だから、参加者の中にリピーターが多いことも納得できます。

この村篤設計塾は、「木造のグリッドを知らないような人は難しいけど、設計初心者も大歓迎」とのこと。住宅設計を志す者は、ぜひ村篤設計塾の門を叩いてみてください。
今回は残念ながら参加できませんでしたが、初日と2日目の夕食は、塾生全員での懇親会となりました。こちらも盛り上がったに違いありません。

参加者集合写真

参加者集合写真

むらとく設計塾2018」次回開催のお知らせ

次回(第2部)は、9月25日〜27日、岐阜県の高山市にて2泊3日で開催予定です。第2部からの参加についても、相談に応じますとのこと。
最新情報は、以下のwebサイトでご確認を。
村松篤設計事務所
・事務局/株式会社鈴三材木店

(よねむし)