「設計が上手くなりたい!」に丁寧に応える
〜「村篤設計塾2018」レポート

びお編集部

住宅設計の研鑽の場

経営塾、創業塾、就活塾、終活塾……、生涯学びを続ける場としての「塾」が好まれる風潮が続いています。その中に、住宅設計者を対象とした「設計塾」なるイベントがあります。
むらとく設計塾」とは、静岡県浜松市に事務所を構える建築家・村松篤さんが主宰する私塾です。木造住宅の設計に携わり、設計力の向上を期する設計者のため、2015年に開塾されました。今年度は、5月と9月、それぞれ2泊3日の2部構成が予定されており、そのうちの第1回が、5月22〜24日、浜松市を中心とした遠州地域にて開催されました。

今、住宅業界は、すわバブルかというほどの忙しさです。金利の低さと、消費税増税を目前に控え、需要がこれまでになく膨らんでいるためです。設計者も、引かなければならない図面に追われ続けている状況でしょう。その間隙を縫って、2泊3日という決して短くない時間を割いて、設計塾に集う理由・魅力は、どこにあるのでしょうか。
「村篤設計塾」に密着しました。

塾生集う

「街の語り部になる家」での講義

「街の語り部になる家」での講義


大分、香川、岡山、岐阜、静岡……。全国各地から、11名の塾生が顔を揃えました。設計者としてのキャリアを積んだ中堅、または社の設計部門の中核を担うスタッフ。アーキテクトビルダー。経営者。造園方面や広報畑から設計を志す者。背景は様々ですが、住宅に真摯に取り組む眼差しは、まぶしいほど輝いています。
3日間のスケジュールは、以下の通りです。

[1日目]
見学と講義:「街の語り部になる家」(浜松市)
見学「旧見付学校」(磐田市)
見学「旧赤松家記念館」(磐田市)
見学と講義「IWATA・SLOW HOUSE」(磐田市/建設中)
[2日目]
事前課題のプレゼン、塾長による講評
見学と講義「FUKUROI・FOREST HOUSE」(袋井市)
見学と講義「浜松・夢双庵」(浜松市)
[3日目]
課題発表、即日設計、マンツーマン指導
即日設計のプレゼン、塾長による講評

即日設計も含む実践的な設計塾なので、同じ設計を志す仲間に、自分の頭の中を見られるという側面もあります。厳しい指導によって、恥をかくこともあるでしょう。それでも、上達したい。もっといい設計をしたい。そんなまっすぐさが、塾生の会話の端々から伝わってきます。
第一回の設計塾から、毎年参加しているという塾生は、
「一年でグシャグシャになった頭の中を整理しに来ている。」
と言います。

見学に徹する初日

村松篤さんが21歳の時に設計した「街の語り部になる家」(浜松市/1983年竣工)にて、設計塾の幕が開きます。ここでの見学と講義はプレプログラムとなっており、初心者講習という位置付けだそうです。

畳敷きの居間から、濡縁を挟んで緑の庭へと続く、大きな開口

畳敷きの居間から、濡縁を挟んで緑の庭へと続く、大きな開口


村松さんがこの家を設計した当時、この家の住まい手からの要望は、「雨、露をしのげる家にしてもらいたい。」という、抽象的なものであったそうです。悩みながらも形にしたこの家は、住まい手にもとても気に入られ、四半世紀以上の時を刻んでいます。子どもが独立し、家族構成も変わったけれど、今でも快適に暮らされている様子が見て取れます。

村松さんを囲んで車座になり、講義が始まります。
敷地、暮らし方、考え方、趣味などをヒントにしながら、「瞬間の閃きを大切にする」こと。最悪の条件でも、必ず良いところはあると信じ、「手がかりが見つかるまで諦めない」ことなど、自らの経験を通して、設計者の心得を塾生に伝授します。
木造の家は、住まわれて味がでます。古さを感じず、むしろその魅力が際立って感じられるのは、設計力はもちろん、材が暮らしの中で表情を獲得してきたからでしょうか。
暮らしを包む「家」として、変わらない在り方で、齢を重ねた住まい手と共に、今もここにある、名建築です。

旧見付学校(磐田市)の教室にて

旧見付学校(磐田市)の教室にて


昼食の後も、この日は建物見学に徹します。訪ねたのは、明治8年に落成した「旧見付学校」(磐田市)と、明治後半の建物が残る「旧赤松家記念館」。
どちらも、管理者より丁寧な解説をいただき、それぞれ60分、ゆったりとしっかりと建物を体感します。その地域の背景や歴史をたどる、小さな旅ですね。
旧赤松家(磐田市)には特徴的な雨戸が

旧赤松家(磐田市)には特徴的な雨戸が


最新の住宅を見学するだけではなく、古い建築に触れることは、設計をする上で欠かすことはできません。視野を広げる、原点に戻る、気持ちを落ち着ける。学べることがあるのはもちろん、視野を広げて建築の魅力を再認識し、建築が大好きな参加者たちの情熱に、新鮮な風を送り込む意味もありそうです。

明治の名建築を堪能した後、村松さん設計の建築中の住宅「IWATA・SLOW HOUSE」(磐田市)を訪れます。上棟したばかりで、まだ「びおソーラー」の集熱パネルも取り付け前の現場です。ヘルメットを着用した塾生に資料が配られ、ミニ講義が始まりました。

村松さん設計「IWATA・SLOW HOUSE」を体感する

村松さん設計「IWATA・SLOW HOUSE」を体感する


新居に対する住まい手の要望を整理し、周辺の状況・敷地の状況を把握し、サイトプランニングを行うといった、設計にたどり着くまでの道筋や手法が、3日間を通して繰り返し塾生に語られる村松さんの「アプローチ」です。なるほど、こういう手順で住まいを考えるのかと、建築素人の私でも納得できます。
そのまま、建築中の建物の中を案内してもらい、一日目のプログラムは終了となりました。