季節をいただく

天草 寒天 心太 てんぐさ かんてん ところてん

テングサ・寒天・ところてん

台風ゆっくり西に過ぎ去り、うねりが鎮まった今切口の浜。寄せては返す波を眺めていると、いつの間にか裸足になり海に入っていた。ひざ下まで洗われながらの波打ち際、砂に足が沈み、波間には緑の海藻が漂う。嵐で海の底がかき回され、帯になって打ち上げられている海藻。アオサやワカメに混じって赤紫の藻、波で洗って透かして見ると天草テングサ。少し歩いて集めただけで、両手に一杯になった。流れ着いた海藻は、この辺りでは漁業権が設定されていないので、海の恵みとして頂くことに。
天草 寒天 心太 てんぐさ かんてん ところてん

幼い頃よく食べた寒天、海藻からできていると聞いて不思議に思った。テングサを乾燥させて煮出し、冷やし固めて細く突き心太トコロテン。それを冬の乾いた冷気と天日で、凍結、乾燥を繰り返して糸寒天。寒天づくりは江戸のはじめ、松尾芭蕉が生きた頃、京の宇治から丹波や摂津に広まった。「清滝の水汲ませてはところてん」と京の嵯峨野でのひとときを詠んだ芭蕉の句が残っている。その後、信州諏訪に伝わり、伊豆産のテングサが信州に運ばれ、明治のころには輸出するほどの産業になっている。今では海外でも生産され、寒天も原材料のテングサも輸入が多い。
天草 寒天 心太 てんぐさ かんてん ところてん

芭蕉にちなんで、持ち帰ったテングサを、山の湧き水でザブザブ洗い、ひと晩さらして夜明けとともに干す。強い日差しと暑さで、あっという間に乾くと独特の磯の香りが漂う。三日ほど繰り返すと、徐々に色が抜け香りも薄くなる。伊豆雲見産の上質の白い乾燥テングサと並べてみるとまだまだ。十日間ほど繰り返し、さらに寝かせると良いのだが、待ちきれずに煮出してみる。煮詰めるほどに淡い紫色になり磯の香。甘味にするには強いので、土の香りのビーツを切って入れ、煮出して鮮やかな赤にした。漉し取って冷やしてもゆるく、しっかり固まらない。お酢を少々足せば固まったかもしれないが、普段使っている伊豆のテングサは、お酢を入れずともしっかり固まる。寒天づくりは、生産者の工夫で、数あるテングサの配合によって硬さや粘りが保たれているとのこと、奥が深くて面白い。
天草 寒天 心太 てんぐさ かんてん ところてん

遠州浜のテングサをビーツで色付けしたゆるい寒天に、伊豆のテングサから作った寒天を浮かべ、スイカ糖をひとさじ。すっきりした海の香りにスイカの濃厚な甘さ、するっと喉を越し、からだが潤います。伊豆のテングサは二色のトコロテンに、青梅蜂蜜と喜界島から届いたパッションフルーツの酸味と合わせました。今、北上している立秋の台風も無事に去ることを願い、浜へ出向きます。
天草 寒天 心太 てんぐさ かんてん ところてん

テングサ(赤):遠州浜今切口、乾燥テングサ(白):丸喜屋商店(伊豆雲見)、ビーツ:まさこオーガニック(遠州伊佐地)、パッションフルーツ:ジユウテイ(喜界島)
すいか糖:http://www.bionet.jp/season-recipe/suikatou/
青梅蜂蜜:http://www.bionet.jp/season-recipe/ume/
天草 寒天 心太 てんぐさ かんてん ところてん

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。