季節をいただく

落花生の梅茹で

一面の緑が広がる畑。
わさわさ生い茂る葉をかき分け株元をたどる。
乾いた砂地を手で掘り進むとひんやりとした湿気。
指先にコロコロとあたるいくつもの鞘、鈴なりの落花生に日差しが当たり輝いた。

落花生がひとつ動き出したと思えば脇からオケラ。
愛嬌のある姿に似合わない素早さで、陽の光から逃げるように砂の中に潜っていった。
農薬も化学肥料も一切使わない畑は、小さな虫たちや目に見えない菌類が活躍している生き物の楽園。
丸々した鞘をひとつ割り、ふた粒の落花生を、生のまま口に運んだ。
あっさりとした淡さ、枝葉に実をつける枝豆のような青い味や香りはない。

落花生
落花生は小さな黄色い花を咲かせた後、大地の中にのばして鞘をふくらませる。
お日さまが当たらないので青くはならない。
掘り上げたひと株の落花生、日差しと風にさらして砂を落とし、実を摘むと両手いっぱいになった。
繭のような愛らしい姿、ひと粒ひと粒の違いは、眺めていておもしろい。

落花生の花

落花生は、遠州篠原の古くからの特産品。
ひかり農園の畑には、遠州早生、遠州半立ち、ジャンボ落花生が植えられ、刈り入れ、天日干し、選り分けと手間ひまかけている。
遠州早生の収穫を終えた砂一面の畑に、ふたつ寄り添う新芽が、あちらにも、こちらにも。
掘り残したこぼれ種からの、忘れ物のお知らせのように思えた。

採りたての生の落花生を、たっぷり水をはった土鍋に殻ごと浮かべる。
ほぐした大玉の梅干しを種ごと、ふたつ入れて火にかけ、水から茹であげる。
様子をうかがいながら、時折、天地を返すようにかき混ぜ、ひと煮立ち。

浮かんでいた落花生が湯を含み水面まで下がると火を落とす。
そのまま冷めて味が入るのを待てば、ほんのり酸味の梅茹で落花生の出来上がり。
殻から取り出して、そのまま食べても、炊きたてのご飯に混ぜ込み、しばらく蒸らしても美味しくいただけます。

遠州の砂地は落花生のゆりかご。
細かな粒のきめの揃った砂が美味しさの源。
天竜川によって運ばれ、長い月日を寄せては返す波に洗われ、積もり積もった砂。
人がつくることができない砂、土、大地、海に空、お日さま。

聞こえてくる松虫の声に、雲隠れの月を見上げ、煎り落花生が止まらない秋の夜長。

表題写真:
上段・煎り落花生(遠州早生)、下段・落花生の梅茹で(遠州半立ち)
漆木皿(新美清彦)

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。