森里海の色
木版画が彩る世界「マユミ」

マユミは、紅葉も美しいですが、それにも増して、鈴なりの実の紅色が印象的です。そんな風に植物が色づく理由は、やっぱり太陽にあるのです。


 
暦の上では冬を迎え、僕の住む温暖な地域でも、紅葉の便りが届くようになってきた。ただ、今年は台風による塩害もあって、紅葉せずに落葉してしまう樹木もあるようだ。我が家の木々も多分に漏れず、10月のうちに、その多くが散ってしまった。同じ散る、でも、葉としての一生を全うして散るのと、塩にやられて枯れて切り離されるのでは、ずいぶん違う。

葉が緑色をしているのは、光合成のための太陽光吸収をする色素・クロロフィルの色によるところが大きい。いわゆる葉緑素、である。
冬になると、日射量が減り、温度が下がるので、化学変化である光合成の効率が悪くなる。
そこで、光合成を諦めて、葉を落とすことで、エネルギー消費の削減をはかるのが落葉樹だ。
(対する常緑樹は、ちょっとでも光合成するために葉を残そう、という選択をした種類)

このとき、葉緑素が減り、代わりに、光合成を抑制する働きがある赤色のアントシアニンが増えると紅葉、もともとあったカロチノイドが目立つと黄葉、ということになる。

緑のままでも十分も美しいと思うのだけど、みなさん紅や黄を見たがる。雄大な自然の景色が見たい、という欲求や、近年ではSNS映えする写真を撮りたい、という理由もあるのだろうけれど、その裏に、季節の移り変わりを体感する欲求があるのだと思いたい。

植物の開花や紅葉には、日射や気温の蓄積が大きく影響する。そういう発育をあらわすのが積算温度という概念だ。開花など、植物の話で知られるが、昆虫などの変温動物にも積算温度の影響がみられる。

では、恒温動物たる我々人間には関係のないことだろうか?

否、この考えは、生物にとって大切なのは、「いまこの場所が暑い、寒い」という閉鎖系の瞬間値ではなく、「どういう状態に身を置き続けているか」、すなわち時間の連続性や、ひいては周辺との開放性が重要だということを示唆しているように思う。

文/佐塚昌則