森里海の色
木版画が彩る世界「コナラ」

数あるどんぐりをつける樹の中でも、代表のひとつといって良いのがコナラです。
特徴的な樹皮や葉身の形を、版画でうまく表現していただきました。
子どもが夢中になるどんぐり拾い、でも大人だって拾う価値はあるんです。


 
大人になってから、ずいぶんたくさんのどんぐりを拾った。

当時在籍していた会社の社屋新築にあたり、造園家の田瀬理夫さんにランドスケープをお願いすることになった。広大な敷地の緑化をどうするか、という課題に、田瀬さんは「自分たちで実生からやればいいんですよ」と言うのだった。

そこから、一万坪の敷地すべてを、拾い集めて育てた植物だけで緑化する、という取り組みがはじまった。建設プロジェクトのリーダーだった僕は、社員を引き連れて、毎週どんぐり拾いの冒険に出かけるのだった。

浜名湖・都田川流域の寺社仏閣を総ナメにした。大木のある民家、休耕田、埋め立て直前の沼など、およそ昔からの植物が自生していそうなところは徹底的に周った。どんぐり類だけでなく、いろいろな種や挿し木の穂をたくさんいただいて、みんなで育てて植えた。そう、当たり前だけど、植物は育つのである。

この過程で、僕の心の持ちようはずいぶん変わった。時間の経過がデザインのひとつであることが、実感として理解できた。新しくつくることと、あるものを守ること、それぞれの価値を学んだ。

コナラは、そのとき一番多く集めたどんぐりだ。
当時、我が家にも撒いたコナラが、今では家を隠すほどになった。

文/佐塚昌則