森里海の色
木版画が彩る世界「カンアオイ」

冬の気配が、秋を飛び越え迫っています。
カンアオイ(寒葵)は、その名の通り、冬も葉を茂らせます。
緑の減った里山の地面と、そこでひっそりと育つカンアオイの対比を、たかだみつみさんの木版画が見事に表現してくれました。
アオイという植物に、いつも思い出すことがあります――


 

たびたび腰痛を治してもらっていたモグリの指圧師の爺さんが『水戸黄門』の大ファンだった。放送がはじまると、施術の手を止め、番組に見入ってしまう。

僕は床に敷かれたせんべい布団に寝そべったまま、「葵の御紋」の登場を待つ。

バカデカいボリュームで「この紋所が目に入らぬか」というフレーズが流れると、爺さんは急に番組への集中力を失って、モゾモゾと施術に戻ってきてくれるのだった。

「葵の御紋」は、賀茂神社の神紋となったフタバアオイに由来する、というのが定説ではあるけれど、僕はカンアオイだったという説を支持したい。始皇帝に不老不死の霊薬探しを命じられた徐福が、日本で目をつけた薬草がカンアオイだったという話もある。そっちのほうが、霊験あらたか、な感じがするし、神紋としても常緑のほうがしっくりくるだろう。

今ではステレオタイプの代名詞となっている「葵の御紋」だが、そのステレオタイプが大好きな指圧の爺さんは、まったくもって型破りで、先の予測ができない人だった。コミュニケーションもすこぶる難しい、けれど腕は抜群によかった。何度も助けてもらった。

葵と聞くと思い出してしまう、僕の恩人の一人である。

文/佐塚昌則