はじめてのこよみ暮らし

七十二候をはじめて過ごす「家族」の記録

中秋の名月は満月?

9月24日の朝、しほが新聞紙を床に敷き始めました。どうやら小学生以来の書道を始めるようです。

太郎 あれ、編集長、書道なんてどうしたんですか。
しほ じゃーん!

太郎 え、月見?
しほ 今回のお題は「月見の名所で月を見よう」です。そういえば中秋の名月は10月4日だって。満月、見に行く?
太郎 編集長。残念ながら、中秋の名月は満月じゃありませんよ。
しほ え、そうなの?
太郎 満月は10月6日。中秋の名月は、十五夜の月と言うのはわかりますよね?旧暦の八月十五日の夜の月ということなんです。だから、だいたい満月の形になりますけど、満月そのままという年はけっこう珍しいです。
しほ たしかに、月見には欠けていた方が、風情があるかも。

月見の名所はどこ?

しほと太郎が住んでいるのは、静岡県浜松市。日本には月見の名所があって、浜松から近い場所へ出かけることになりました。

太郎 ところで編集長、月見の名所を知っていますか?
しほ えー、ヒューストン?
太郎 たしかに、アポロ11号の月面着陸を見守っていたのはヒューストンの管制室でした。って、そうじゃなくて。
私が持っている『新歳時記』(高浜虚子編)は、月見の名所として近江の石山寺・信濃の姥捨・播磨の明石潟・遠江の小夜の中山を紹介しています。
しほ ふーん。
太郎 特に有名なのは近江、滋賀県の石山寺ですね。かつて紫式部が月を見て源氏物語を書こうと思い立ったという由来で、月見の名所になったそうです。
しほ 源氏物語なら私にもわかる!
太郎 よかった。誰かが月の和歌を作ったり、月を見て本を書いたりすると、そこが月見の名所になるんです。
しほ ふーん。で、浜松の近くに月見の名所はあるの?
太郎 遠江の小夜の中山。静岡県掛川市にあります。
しほ なんでそこが月見の名所なの?
太郎 松尾芭蕉が〈馬に寝て残夢月遠し茶の煙〉という俳句の着想を、小夜の中山で得たからです。
しほ ふーん。よく分かんないけどお茶なんだね。お団子と合いそう!

月見団子を作ろう!

いざ月見をしようと考えてみると、いろんなものが必要だと気付いたしほ。花器にススキを挿し、さあ、あとはお団子です。

しほ 月見と言ったら、団子でしょ。和菓子屋さんで買って来ようっと。
太郎 ちょっと待って。近所のスーパーマーケットでだんご粉を買ってきました。これで月見団子を作りましょう。
しほ え、自分たちで作るの? 大変じゃない?
太郎 いえ、材料はだんご粉と水があれば大丈夫です。
しほ へ〜そうなんだ。

だんご粉をこねる

太郎 まずこうやってだんご粉200グラムに対して140ミリリットルの水を入れます。それで耳たぶくらいのかたさになるまでこねます。
しほ だんだん固まっていくのね。
太郎 そうしたら小さく掌でまるめて団子にしていきます。愛知県から静岡県にかけては、「へそ団子」といって真ん中を窪ませるらしいので、それで作りましょう。編集長も手伝ってください。

しほ ほんとうだ、おへそみたいだね。
太郎 それで沸騰したお湯に入れて茹でます。
しほ ちょっとちょっと、このお団子大きくない?
太郎 お湯に入れて浮いてきたら茹で上がりです。大きさはお好みで構いません。
しほ あ、浮いてきた。
太郎 そうしたらお玉ですくって、冷水に入れて。お皿に盛り付けましょう。
しほ そうだ、ちょうど小豆餡の缶があったんだった。餡子をかけて、これで完成ね!

月見団子-静岡県西部

太郎 お!いいですね。お月見団子っぽい。
しほ でしょ?

おいしそうなお月見団子ができたようですね。Web女子しほと年齢不詳系男子太郎がこよみ暮らしにチャレンジしたり、こよみの達人から話を聞いたりする連載企画「はじめてのこよみ暮らし」がスタートしました。5日に一度、七十二候ごとに生活にこよみを取り入れた体験記が更新されます。

月見へ行こう!

月見団子をつくったしほと太郎は、午後2時頃、車で東を目指しました。掛川市にある小夜の中山へ、団子を持って月見をしようと考えたからです。

太郎 ここが旧東海道にある小夜の中山です。江戸から京都を目指して通る人たちにとって、ここは大井川を越えていきなり直面する難所でした。
しほ 見渡す限り、茶畑ばっかりだね。あ、真っ赤な夕焼け。きれい。

小夜の中山

太郎 もうすぐ日が暮れますね。今日9月24日は三日月ですから、昼過ぎには南中しているので、もうすぐ西の空に月が見えるはずです。

……十数分後。

しほ 日は暮れたけど月は見えないね。
太郎 雲が出て来たからかもしれません。
しほ ……私が雨女だからかな。
太郎 大丈夫です。雨じゃなくて曇っているだけですから。じゃあ、気を取り直して、作ってきた月見団子を食べましょうか。
しほ うん!

しほと太郎は、月見団子をかいしきに乗せ、車の中で食べることに。車の外は、だんだんと薄暗く寂しくなってきました。

しほ お団子食べたから、帰ろうか。雲は晴れそうにないし。
太郎 はい。ブロロロ(エンジンをかける)
しほ 月、見たかったね。
太郎 はい…。

…しばらくして袋井市内、国道一号線。

しほ あ、見て!!
太郎 え、なんですか?運転中なんですけど…。
しほ ほら、あそこ。月!

西へ進む車のフロントガラス、その左上に、三日月の光がぼんやりと見えました。月見の名所である小夜の中山では、月見をすることができなかったけれど、帰りの車のなかでしほと太郎は月見をすることができました。
ただ月を見ただけで、その場所が新しい月見の名所になる、なんてことはもちろんありません。でも誰かと一緒に月見をしたことをずっと忘れずにいられたら、そこは自分たちにとって、新しい月見の名所なのかもしれません。

しほ 月を見られて、よかったね。
太郎 そうですね。
しほ こうやって準備をして見た月はずっと忘れないね。
太郎 あ、いま、いいこと言いましたね。

月光に許されてゐる一夜かな 林甲太郎


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