びおの織り子たち

びお編集部の「ゆる〜く住まい談義 」(2)

住まいマガジン びおの企画会議の中で、編集部の3人(編集の林・デザイナーの阿部・編集長の尾内)の共通点はなんだろうと考えたところ、「まだ持ち家がない」3人であるということがわかりました。それぞれに結婚し家庭を持ちながら、マンション住まい。そんな持ち家がないメンバーだからこそ伝えられることは何か。私たちの等身大の視点を大事にした企画作りがしたい。そこで、まずはどんな住まい感・住宅感を持っているのか話をしてみようというゆるい会です。

第1回はこちらから。

今回は、持ち家に対する常識とそれを打ち破ろうとする動きについて。

|一般的な持ち家に対する常識

阿部 私が生まれ育ったのは浜松市の北にある元浜北市(現在は浜松市浜北区)です。最近は少し増えてきたけど、あっちはマンションとかほとんどなくて、みんなだいたい一軒家に暮らしているものだから、結婚したら家を買うのがあたりまえになっています。そういう流れがあるから、結婚して家を買ってもらえないのはだいぶ寂しい嫁扱い、という考えがありますね。田舎は。

尾内 なるほど。寂しい嫁扱い……

阿部 ただ、浜松市もまちなかになるとそういう感覚はないんですよ。旦那もまちなかで育ちましたが、子どもの時からマンション暮らしです。

 土地もあるけれど年代的なこともあるかもしれませんね。バブル崩壊前に青春を迎えた人か、後に青春を迎えた人かで。車など財産を持つこと、家を買うこと、自分が将来にわたって仕事があることをバブル崩壊後に青春を迎えた世代は想像しにくいですね。私が小学生のときの記憶というとオウム真理教とか住専国会とかあって……

尾内阿部 住専って?

 住宅金融専門会社が多額の不良債権を抱えて莫大な損失があり政治問題化したことです。小学生ながらこの国は将来ダメなんじゃないかと思っていました。この30歳から40歳くらいの人にはあるんじゃないですか。

阿部 これと最近は空き家問題の話をよく聞くじゃないですか。あれもだいぶ家を買うのに踏み切れないんですよ。昔は家や土地をもっていれば将来的に財産になるから子に相続したり、老人ホームに入るときに売ったりするなどしていたようですが、これから家を買ってちゃんと価値がついてくるんだろうか。ローンだけ払って、払い終わったときに価値がゼロになるかもしれないというのはすごい怖い。

 建てたら財産としての価値になるという考えはバブル以前の時代の考えですよ。その崩壊を目の当たりにした人には、家を建てたらそれが財産になるなんて馬鹿らしいような気がします。

阿部 ちょっと話ずれるんですけれど。前の会社の同僚にオーストラリア人がいました。その人はけっこう稼いでいたのでお金はあって、日本人と結婚していて、でもずっと賃貸マンションだったんです。「なんで家を買わないの?」と聞いたら「日本は家を建てた瞬間から家の価値が下がるから日本では家買いたくない」と言って、その人はオーストラリアに家を買ったんですよ。ただ、自分は日本にいるから、買った後はそれを他人に貸しているって。オーストラリアでは家を建てた瞬間から価値が上がって、何十年と経っている方が価値が上がるらしいので、今は他人に貸しておいて何十年後かに自分が住むときに価値があがるように建てたと言っていました。日本は新しいものの方が価値があるのに、むこうでは古いものの方が価値があるっていいですよね。

 日本だと減価償却しちゃいますからね。フランスのパリだと古い家の方が価値があるとは聞いたことがありますね。古い家ほど長く建っているから。

阿部 何百年と建っているから。

 まあ19世紀半ばのパリ改造からでしょうからたかだか百数十年ですが。石造りというのもありますね。

|住み替える、自分で家をつくるということ

尾内 私はたとえ家を買ったとしても、同じ家に長く住むというイメージが持てずにいます。この前取材させていただいたヤドカリプロジェクトは空き家をリノベーションする際にきちんと家の価値を上げるようリノベーションして、自分が住みながら次の住み手を探して、その家が売れたお金で自分はまた別の空き家を探してリノベーションして建て替えて住んで、というように、価値が低い空き家に付加価値をつけて資産価値を高めていく活動があると聞いて、それは現実的だなと感じました。

阿部 それが定着していくと家が古い=価値が低いという考えが変わっていくとこれから家を持つ人が買いやすくなりますよね。

尾内 ヤドカリプロジェクトのような、時代やライフステージに合わせて住み替えることのできるスタイルは、一つの理想かなと自分では思っています。

阿部 それは価値をうまないといけないからつくりとしてはちゃんとしなきゃいけないですね。経年劣化しないよう。

尾内 そうですね。最近はDIYなどによって、個人で家をリノベーションするというケースが増えていていますよね。ただ、それが居心地のいい空間になるかというと必ずしもそうじゃないと思うんです。アトリエならいいんですけれど住宅となると、ある程度ちゃんとした素材やディテールのなかで暮らすことが安心感や居心地の良さを生むことだってあるのではと。そうした自分たちだけではできないことは、プロに頼む必要はあるんだと思います。

阿部 配管とか配線はできないですもんね。

尾内 阿部さんは、自分でやってみたいことありますか。

阿部 もともと住んでいた実家が、中庭に屋根付けてテラスにしていたり、いくつかの部屋は父親の日曜大工で増築したり、壁も珪藻土を塗るなどしていたので、今のマンションも業者に頼まず自分で壁紙を貼るくらいはやりましたね。今も玄関とトイレの壁のペンキを塗り替えようと思って材料を買ってあります。

尾内 それはおひとりで?

阿部 旦那が手伝ってくれればありがたいですけれど忙しいのでね。やっちゃおうかなっと。

尾内 そういうふうにいじれるのはいいですね。賃貸は壁に穴をあけるのもできないから。

阿部 古い空き家なら改装できるけれど古い前提が嫌ですね。

 新しくて空き家ってのも曰く付きで嫌だな。

阿部 それはもう大島てる*に頼るしか……

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つづく
次回は3月15日更新予定です。