森里海の色
四季の鳥「ツメナガセキレイ」

湿原で見た鮮やかな黄色

日本国内で何種類の鳥を見ることができるかご存じでしょうか。一年中国内にいる留鳥、春にやって来て繁殖し秋に南に帰る夏鳥、秋に訪れて越冬し春に北に帰る冬鳥、南と北を移動する途中に春と秋に一時的に日本に立ち寄る旅鳥、それに気象条件などの原因で日本列島に漂流してしまった迷鳥・珍鳥の類を含め、日本の野鳥図鑑には500種以上の野鳥が紹介されています。私はまだ300種に満たないのですが、250種を超える辺りからは関東圏から遠くに出かけていかないと出会うことができない種類が増えてきます。年に数回、まだ見たことのない野鳥を求めて探鳥遠征に出かけています。

つめながせきれい 爪長鶺鴒

先月中旬、バードウォッチング仲間と出かけたのは北海道稚内のサロベツ湿原でした。初日はあいにくの小雨模様、風もあり、気力が萎えてしまうほどの寒さ。湿原のなかのどこまでも続く木道を歩いても鳥の姿は見えません。引き返し始めたとき、ジュジィジィと少し濁った鳴き声が聞こえ、姿を現したのはツメナガセキレイでした。たくさんの蚊と思われる昆虫をくわえ、木道近くのゆれる灌木にしばらく止まったかと思うと、湿原の下草に隠れてしまいました。近くに巣があるのでしょう。
日本国内でよく見られるセキレイの仲間にはハクセキレイ、セグロセキレイ、キセキレイがいます。ツメナガセキレイはキセキレイに似ていますが、より上面の黄色みが強く、脚が黒いことで、脚が肉色のキセキレイとは容易に区別できます。ツメナガセキレイはユーラシア大陸、アラスカ西部で繁殖し、アフリカ、インド、東南アジアで越冬する鳥です。日本では主に旅鳥として日本海側で見られますが、何種類かの亜種がいるツメナガセキレイのなかで、亜種ツメナガセキレイだけは北海道北部で夏鳥として繁殖しています。
夕刻の冷たい小雨交じりの湿原で見た鮮やかな黄色は、忘れがたいツメナガセキレイとの初めての出合いとなりました。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。