森里海の色
四季の鳥「コゲラ」

日本でいちばん小さな啄木鳥

9月中旬、林道を歩くと、実の熟したミズキの木は鳥たちのレストランになっていました。実を一飲みし、ギーと鳴いて細い幹をどんどん上にのぼっていくのはコゲラです。全長15cmほど、スズメくらいの大きさの、日本でいちばん小型な啄木鳥。私の大好きな鳥です。
コゲラはロシア南東部、中国東北部、朝鮮半島北部、サハリン、日本列島など、東アジアの限られた地域に分布している鳥で、英名で Japanese pygmy Woodpeckerと呼ばれています。
コゲラは今では公園や街路樹、樹木の多い住宅の庭先でも見ることのできる身近な鳥ですが、市街地で見られるようになったのは1990年代からで、以前は郊外の雑木林に行かないと見られない鳥でした。それだけ都市の緑が豊かになったということが言えるのでしょう。
コゲラは額から体上面は黒褐色で、背と翼には白い横斑があります。頬は褐色、眉斑と顎から喉にかけて白く、体の下面は汚白色に褐色の縦斑があります。実は雄には後頭部の両側に赤い羽毛があるのですが、普段は隠れていて、風でも吹いて羽毛が逆立たないとなかなか見ることができません。
上の写真に他の鳥には見られない木登り上手なキツツキ特有の姿を見ることができます。まず丈夫な尾羽をピッタリ幹に押しつけ、2本の脚との3点支持で体を支えていること。そして脚を見ると、普通の鳥の脚が前3本、後1本であるのに対し、前2本、後2本になっています。これは垂直の幹をがっしりと捉まえるために進化したかたちです。

小啄木鳥 こげら

コゲラは初夏、広葉樹の朽ちた幹などに直径3センチほどの穴を空け、雄雌が協力して営巣します。生む卵は4〜6個で、2週間ほど抱卵した後に孵化、ヒナは3週間ほどで巣立ちます。
今年、私は仕事場で悲しい思いをしました。5月のある日、仕事場の隣に住んでいる女性が、玄関のドアを叩きました。「真鍋さん、なんとかしてー」 今にも泣き出しそうな顔をしています。玄関近くのアラカシの木にはコゲラの巣があり、中からは毎朝、ヒナの声が聞こえていたのです。それが、この日、彼女の指さすコゲラの穴から覗いていたのはアオダイショウの下半身でした。
 
  きつつきや落ち葉をいそぐ牧の木々  水原秋桜子
  啄木鳥や山しんとして晝の月  正岡子規

秋から冬にかけて林道では小鳥たちの混群を見ることができます。エナガ、メジロ、ヤマガラ、シジュウカラに混じって、ちょっと私も仲間に入れてと、幹から幹へ移動するコゲラの姿を見ることができます。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。