森里海の色
四季の鳥「コアジサシ」

夏を呼ぶダイブの達人

鰺刺や空に断崖あるごとし 林翔

夏らしい鳥の筆頭にアジサシの仲間をあげることに、鳥好きの人は異論がないでしょう。キリッ、キリッとするどく鳴き、海や河川の上を俊敏に飛んで、小魚を見つけるとダイブするコアジサシはまさに夏の風物詩です。
コアジサシはカモメ科アジサシ属に分類される鳥で、日本には春から夏に繁殖のためにやってきます。大きさは28センチほど。頭頂と嘴から後頭部にかけて黒、嘴は黄色で、先端だけ黒くなっています。羽は灰色、体の前面は白、脚はオレンジ色をしています。埋立地や河川敷、砂浜など草の生えていない場所を選んでコロニーをつくり、地面のくぼみに雌は2~3個の卵を生みます。
ずいぶん以前に千葉県の飯岡漁港にアジサシ類を観に行ったことがあります。堤防沿いに男たちが海に入って貝を採っている横を堤防の先端まで歩いていくと、コアジサシの声が聞こえてきました。コアジサシは海でボラの稚魚などの小魚を捕り、砂浜を行ったり来たり、雛に餌をあげたり、求愛給餌をしたり、いつまで観ていても見飽きません。海岸を歩いていると、眼と鼻の先にコアジサシの雛がビニールゴミの間でじっとしていて、危うく踏んでしまうところでした。成鳥は人の動きに合わせで距離をとることができますが、チョロチョロと歩き始めたばかりの雛は、まだ隠れているしか術がありません。何と無防備なんだと、その時に驚いたことを思い出します。

小鯵刺

いまコアジサシは環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。私が住む神奈川県でも1980年代まではあちこちに普通にあった営巣場所が、今ではほとんど消滅し、人為的に保護された場所がわずかに残るだけとなってしまいました。
営巣場所が急激に消滅していった原因はいくつか考えられます。コアジサシが集団営巣する埋立地や河原がグランドとして利用されることが多くなったことがまずあげられます。自然の河原であっても、そこにレジャーで車を乗り入れることが多くなりました。車の乗り入れで固くなった地面はコアジサシの営巣には不向きです。またレジャー客の捨てていった残飯がカラスを呼び寄せることになり、カラスがコアジサシの卵や雛を食べてしまうことも増えました。
掲載した写真は昨年6月下旬に撮影したものです。ちょうど雛が孵った頃でした。この営巣場所は周りを水路が囲んでいるため人は入れず、コアジサシにとって好都合です。こうした営巣場所が一つでも多くコアジサシのために増えることを望みたいと思います。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。