森里海の色
四季の鳥「キバシリ」

亜高山帯の木登り上手

ある年の新緑のシーズン、奥日光の湯元から刈込湖に向かう山の緩やかな北斜面を鳥仲間と登っていました。けもの道のような登山道の周りはクマザサが生い茂り、その新芽を食べるニホンザルの群が先ほどから私たち一行と並行して森の中を移動していきます。
突然、Sさんが「キバシリ!」と小さく叫びました。「ズィー」という声の方向を探すと、見通しの良い10メートルほど先のイタヤカエデの幹をキバシリが螺旋を描くように登っていくところでした。あわててカメラを構え、ファインダーでとらえるまでにすでに幹を一周。なんと素早いのでしょう。
キバシリは亜高山帯の針葉樹林で1年を通して観察することができます。動きが早くほとんど止まってくれないので撮影にいつも苦労します。大きさは全長13.5センチほど。スズメよりやや小さく細身の体つきをしています。雄と雌は同色で、頭部から体上面は茶褐色と白の縦縞、下面は白っぽい色をしています。体上面の色は森のなかでは完璧な迷彩色で目立ちません。でも、その体つきは他の鳥にはない特徴を持っているので、一度見たら間違えることはないでしょう。

木走

まず一番の特徴は、その嘴です。キバシリの食べ物はチョウやガ、それに木の幹に生息する昆虫類やクモ、その卵です。樹皮の裏や割れ目に潜んでいる生きものを食べやすいように、嘴は細長く、下に湾曲しています。
もう一つの特徴は長く強靱な尾羽です。オーバーハングしたような幹でも苦もなく素早くのぼっていけるのは、長い指のある肢とこの尾羽で体を支えるからです。同じく木登り上手のキツツキの仲間もやはり体を尾羽で支えています。
イタヤカエデの幹にいたキバシリは上へ上へと登っていき、ついに見えなくなってしまいました。それでも私たちはしばらくそこに立ち止まっていました。高みまで登り切ったキバシリが隣の木に飛び移り、また根元から登りだすのを知っていたからです。



真鍋弘

真鍋弘  まなべ・ひろし編集者

1952年東京都生まれ。編集者。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。