森里海の色
四季の鳥「イワヒバリ」

室堂で見た一群

ライチョウを捜して立山室堂山荘に泊まった日、夕食までしばらく時間があったので、夕日に染まる山々を見ようと外に出てみました。午後6時を過ぎると、山荘の前はほとんど人の出入りがなくなります。涼しい風に吹かれていると、山荘の屋根の上から「チュクチュク、クリヒークリヒー、チョリチョリ」とさえずりが聞こえてきました。見上げると、5羽の鳥が屋根の端におり、私のすぐ近くに次々に降り立ちました。群はフィフィフィと鳴きながら、ときに小競り合いをしながらチングリマのお花畑のなかを移動していきます。まったく人を警戒しません。私が室堂で見たかった鳥、昼間、遠方でしか見ることができなかったイワヒバリが、目の前にやって来てくれたのです。群のなかには今年生まれの幼鳥も混ざっていました。
イワヒバリはヨーロッパ南部のアルプス、ヒマラヤ山脈などに生息する鳥で、日本では本州中部のハイマツ帯より上部で繁殖しています。全長18センチ、スズメより少し大きな鳥で、雌雄同色、上半身は灰色、下半身は赤褐色、翼は黒褐色をしています。成鳥の上くちばしは黒っぽく、下くちばしは黄色です。

岩雲雀 いわひばり

この鳥はとても変わった繁殖生態をしていることが知られています。雄・雌数羽のグループで繁殖活動をしますが、なんと雌から雄にプロポーズをするそうです。しかも1羽の雌がグループ内のすべての雄と交尾する多夫多妻のファミリー。雌雄ともに抱卵し、雛が生まれると、今度は1羽の雌の巣に複数の雄が来て、子育てを手伝うというイクメンぶりを発揮します。それだけ彼らの生息する高山が雛が生き延びるのに厳しい自然環境だということなのでしょう。私が出会った5羽の群もそうしたイワヒバリ一家だったのでしょう。
5羽の群はストーカーの私から少しずつ距離をとり、10分ほどでついに見えなくなりました。夕刻の室堂でのイワヒバリとの出合いはとても印象深いものとなりました。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。