森里海の色
四季の鳥「ヒバリ」

春を告げるディスプレイ・フライト

永き日もさえずりたらぬ雲雀かな 芭蕉

桜の開花より一足先に本格的な春の訪れを告げてくれるのはヒバリのさえずりでしょう。先日、河川のヨシ原に沿ってどこまでも続く土手を歩いていると、久しぶりに頭上でヒバリの声を聞きました。ピーチュク、ピーチュク、ピーチュク。おお、ずいぶん高く上がったなあ。そう言えば揚雲雀という季語がありました。

あれとれと乳母をせがむや揚雲雀 子規
くさめして見失うたる雲雀かな 也有

真っ青な空にどんどん高く上がって小さくなったヒバリは、時に空に溶けてしまったように見失うことがあります。横井也有の句は私にそんな光景を思い浮かべさせてくれます。

雲雀

高く舞ったヒバリは鳴き声を変え、今度はピチュリ、チュルリ、チュリと何か話をしているように複雑に鳴きながら天に張り付いたままホバリングを続けています。と、リュリュリュリュリュ……と垂直降下をして近くの芝生に降り立ちました。揚げ鳴き、空鳴き、降り鳴きは雄のヒバリの縄張り宣言です。ヒバリは英語でskylark、またはlarkと言いますが、larkには愉快、戯れという意味もあります。確かにこんなに見ていて面白いディスプレイ・フライトができる鳥はそうはいないでしょう。

ヒバリは体長17cm。スズメより少し大きな鳥で、後頭部に短い冠羽があるのが特徴です。体は淡い黄褐色に、頭・体の上面・翼・胸に黒い縦斑があります。尾羽は飛翔するとバチ型に見えます。北海道から九州までの草地、河原、畑で広く繁殖している身近な鳥ですが、農耕地の減少などから近年、繁殖地が半減しています。春の訪れを告げてくれるヒバリのさえずりが、これからも永く聞かれることを祈らずにはいられません。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。