森里海の色
四季の鳥「ハヤブサ」

蓮池の襲来者

2年前の9月中旬、県外に淡水系のシギやチドリを見に行ったときのことです。利根川沿いの農の風景のなかをゆっくり車で移動しながら双眼鏡で遠くの蓮池に鳥を見つけると、車から降りてゆっくりと近づき、観察するということを繰り返していました。ツルシギ、オジロトウネン、コアオアシシギ、セイタカシギなど幾種類ものシギが青い空を映した蓮池に並び、彼らがつくる波紋が池に広がって一幅の屏風絵のようです。水面をなでるように涼しい風が通り抜け、陶然としてきます。

隼 鶻 はやぶさ

居眠りしていたシギたちがときどき目を開け、首をかしげるように空を警戒しています。そのときでした。上空から急降下した黒っぽい鳥が左から現れ、正面で向きを変えて私のほうに近づき、左に折れて遠ざかっていきました。その間、10秒ほどの出来事。突然のハヤブサの襲来でした。掲載した写真はそのとき、撮影したものです。ハヤブサが去ると、蓮池はもぬけの殻。シギたちはみんなどこかに行ってしまいました。
海岸でシギやチドリを観察していて、ハヤブサが現れたことで干潟の鳥が消えてしまったという経験はこれまでに何回かありましたが、ハヤブサを間近で見たのは、この蓮池が初めてでした。
ハヤブサは私が住む神奈川県では江ノ島や城ヶ島、真鶴半島などの断崖に毎年、繁殖のためにやってきます。雄の体長(嘴から尾羽まで)が38~45センチなのに比べ、雌は46~51センチもあります。ヒナが生まれて間もない時期、小さく俊敏な雄が小鳥を襲うことに専念し、巣でヒナを守り育てる雌が大きいほうが繁殖しやすいからでしょう。今年、江ノ島ではハヤブサのカップルが繁殖を成功させたと聞きました。来年は私も地元でハヤブサを観察したいと、今から楽しみにしています。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。