森里海の色
四季の鳥「ダイゼン」

夏羽から冬羽へ

毎年、 8月のお盆の頃になると、私は早朝に千葉県の海岸に出かけていきます。この時期、森林の鳥たちはすっかり姿を隠してしまいますが、野鳥の世界では秋の渡りのシーズンがすでに始まっていて、海辺に行けばシギやチドリが干潟で餌をついばむ姿を見ることができます。この鳥たちの多くは繁殖地である北極海沿岸やユーラシア東部から越冬地である東南アジア、オセアニアへの移動の途中に日本の海岸に立ち寄った鳥たちです。
干潟に近づくと、ピーユと尻上がりの声が聞こえ、数羽の鳥が降り立ちました。ダイゼンでした。

大膳 だいぜん

ダイゼンは体長が30センチほどの大型のチドリの仲間です。干潟を小走りに走ったかと思うと、ふいに止まり、地表をつついてゴカイを引っ張り出して食べています。
ダイゼンの夏羽は顔から胸、腹が黒く、頭から上面は黒褐色と白の斑模様、額から胸側は白いのですが、これが冬羽に変わると上面は淡灰褐色、顔や下面は白っぽくなります。この時期のどの個体も夏羽から冬羽への換羽の途中ですが、個体によってかなり差があります。この差はどこからくるのでしょうか。
タカの仲間であるサシバやハチクマに発信器を付けて渡りのルートを調べた研究者の報告によると、彼らは繁殖地と越冬地をまるで何丁目何番地と自分の住所を行き来するかのように正確に移動を繰り返しているといいます。これはおそらくタカ類に限ったことではないのでしょう。毎年、春と秋、北半球と南半球を移動するシギやチドリたちも個々の個体はかなり限定した場所の間を移動しているのではないでしょうか。仮にそうだとすると、同種のシギやチドリであっても個々に移動距離は異なるはずです。換羽の時期が飛行に不利であるのは、換羽期のボロボロのトビの姿を見ればわかります。それぞれの個体は移動する時期と距離とルートに合わせて、長旅に支障がないように換羽の時期がプログラミングされているはずです。干潟で見る換羽の状態が違うダイゼンたちの羽衣はそれぞれの故郷の違いを示しているのではないでしょうか。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。