森里海の色
四季の鳥「アオバト」

海水を飲むオリーブ色の群

ハトはスズメやカラスと同様に、私たちにとってとてもポピュラーな鳥です。でも今回ご紹介するのはアオバト。「えっ!知らない」という方も多いでしょう。英語名でgreen-pigeonと言われるように、全身が美しいオリーブ色をしています。雄は頭から胸にかけて黄色みが強く、翼の一部がブドウ色、腹部から尾羽にかけての裏側は白く、くちばしやアイリングは青く縁取られています。森林に棲むハトで、林道を歩いていると「アオウアオー」とちょっと悲しげな鳴き声を聞くことがありますが、森で見ることはなかなか難しい鳥です。
ところが、このアオバト、私が暮らす神奈川県の湘南地域では5月中頃から9月下旬頃まで群で海岸の岩礁地帯に海水を飲みにやって来るのです。
今年7月、人出が少ない早朝を見計らってアオバトを見に行きました。目的地に着くと、すでに岩礁の上に一人の釣り人がいました。ああ、これでは近くの岩礁の上に降りてくれないとがっかりしていると、しばらくして30羽ほどの群がやってきて、岩礁の上を飛び回り、少し沖の岩礁に降り立ちました。

青鳩 あおばと

それにしても、このアオバトたちはなぜ海水を飲みに来るのでしょうか。この謎が、地元の熱心な野鳥観察グループ「こまたん」の長年の研究からわかってきました。湘南の海にやってくるアオバトは20~30キロ離れた丹沢山系からやって来ますが、夏の間、アオバトが食べているアオキのような果実にはほとんどナトリウムが含まれていないので、果実からの栄養分を吸収するために必要な体内のナトリウム・カリウム濃度を確保するために、海水吸引をおこなっているのだろうというのです。ハヤブサやオオタカに襲われる危険、波に飲まれる危険を冒してでもアオバトにとって生命維持のためにやってこなければいけない湘南の海だったわけです。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。