色、いろいろの七十二候

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鱖魚群・湯たんぽ

暖かく過ごす夜
画/いざわ直子
こよみの色
大雪
浅葱色あさぎいろ #00A3AF
鱖魚群
牡丹鼠ぼたんねず #D3CCD6

二十四節気は「大雪」を迎えました。大雪は「雪いよいよ降り重ねる折からなれば也」といわれ、初候の閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)は天地の気が塞がり、冬になる、という候です。
折しも北日本では荒天となっていて、まさに「大雪」といった厳寒が訪れています。

2012年12月3日から、冬の電力需給対策としての、政府が定めた節電要請が始まりました。
日本の家庭のエネルギー消費の割合は、冷房は全体の2.9%に対して、暖房は26.8%という統計があります(2012年エネルギー白書より)。

夏場は日中にピークを迎える電力需要ですが、冬は気候の特質上、長時間にわたって暖房需要による電力消費が増える傾向があります。

今回とりあげる「湯たんぽ」は、古くからある暖房用品です。

漢字では「湯湯婆」と書きます。語源になっているのは中国語「湯婆」で、「婆」は妻や姑を指します。お湯によって、母親や奥さんのような温もりを、ということでしょうか。なかなか面白い語源です。

一説には、湯が中に入った状態の擬音語で「たんぽ」という話もあります。どちらにしても、少しユーモラスな名づけ方ですね。

様々なハイテク暖房機器に押されて消え行く運命か、とも思われましたが、2007年の原油高で再ブレイクし、また近年の節電需要に応えるものとして、引き続き愛用者が多いようです。

さて、水を暖める、ということで少し触れておきたいのが、発電所の排熱です。

火力発電や原子力発電は、燃料を燃やして温水を作り、その蒸気でタービンを回して発電する、という仕組みで発電しています。燃料の違いこそあれ、温水を作っていることにはかわりありません。

火力発電は、新旧でずいぶん効率が異なりますが、近年の国内平均発電効率は40%程、原子力発電は30%程といわれています。

お湯を沸かしたエネルギーのうち、3割〜4割程度が電気になるということです。では残りの6〜7割はどうなるか。これは、熱として発電所の外に出ていきます。

100万kWの出力の場合、取水した海水より最大7℃高い温度の水を、火力発電所で秒間に30〜40㎥、原子力発電所では70㎥排水します。秒間70㎥というと、25メートルプールが7秒でいっぱいになるほどの量です。100万kWの原発で効率が30%ということは、200万kW分はお湯にして捨てている、ということです。

ひところ、「日本の電気の三分の一は原子力」と喧伝されていた時期がありました。

電力の三分の一が原子力で、かつその原子力が三分の二のエネルギーを熱として捨てている、ということは、こと発生した熱だけを見れば、原子力で日本の電力全てに相当するエネルギーを発生させていた、ということになります。
(もちろん、熱機関の効率は100%にはなりません。熱力学の第二法則の表現として、「一つの熱源を利用して、その熱源から熱を取り入れ、それを全部仕事に変えるような熱機関はあり得ない」というトムソンの原理があります。)

それだけ多くのエネルギーが、熱として排出されているということです。
これを持って原発が温暖化に寄与するのでは、という人もいます。実際には、この熱よりも、太陽から入射する熱のほうがずっと大きく、また夜間の放射によって地球は冷却されるため、海水温がどんどん上昇する、ということには今のところなっていません。

しかし、排水される発電所近辺に関していえば、明らかに温水の影響はあるようです。

若狭湾では、毎年冬に見られた南方系の魚類が、原発停止後に見られなくなったといいます。

こうした例は、福井に限らず原発立地の各地で起こっています。

「神の火」を手に入れて、既存の生態系を壊し、新たな経済的生態系が出来ていた、というとセンセーショナルですが、温排水は原子力発電だけのものではありません。火力発電でも、原子力より少ないものの、やはり排熱が発生します。この排熱を、養殖だけでなく、コージェネレーションとして花卉栽培や暖房に使うケースもありますが、これらも発電所の停止と一蓮托生です。

エネルギーを使う人は遠くの都会に暮らしていて、地元ではそれによって出たエントロピーを巡って問題が起こる―。昨年来、私たちはこのことに気がついたはずですが、このまま忘れていってしまおう、あるいは元の鞘に収めよう、という空気を感じてなりません。

「湯たんぽ」は、水を沸かして蓄えて、その放熱を利用するものです。
水は熱容量が大きく、暖まりにくいと同時に冷めにくい性質を持っています。蓄熱体として水を活用する局所暖房です。
「腹まき」は、人体の熱を外部に漏らさず、外気にさらさないための断熱の役割を果たします。

遠くのエネルギーだけでなく、そこにあるエネルギーも使う、という発想で、冬に挑戦してみましょう。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2012年12月07日の過去記事より再掲載)