色、いろいろの七十二候

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水始涸・商店街

商店街
画/いざわ直子
こよみの色
秋分
真朱まそお/しんしゅ #EC6D71
水始涸
古代紫こだいむらさき #895B8A

郊外型ショッピングモールが乱立し、そこにいけば手にはいらないものはない、かのように思える時代です。ネット通販大手のアマゾンも、当初は書店であったような気がするものの、いまや47都道府県産のお米が揃う「新米ストア」なるものまで開設しています。

アマゾンの強力な機能の一つにレコメンド・クロスセルがあげられます。「この商品を買った人はこんな商品も買っています 」や「よく一緒に購入されている商品」といったアレです。
そこで思わぬ関連本に出会うこともあります。手軽さに加えてのお勧め機能で、つい別の本を買ってしまった、という経験のある人も多いでしょう。

ところが、先の「新米ストア」に目を向けると、どの米を見ても、よく一緒に購入されている商品はペットボトル入の「水」ばかりです。米や水といった重量物を通販で頼むのだなあ、という想像は出来ますが、お勧めされる側としては、もうひとつ面白くありません。おそらく書籍と同じロジックで表示されているのでしょう。本ならともかく、食べ物の買い物、としては妙味に欠けるのです。
スーパーマーケットでは、秋刀魚のそばに大根を置く、というクロスセルが行われます。こうなると、少しは買い物の妙味が出てきますが、スーパーマーケットでの買い物も、せいぜい「レジ袋は御入用ですか」ぐらいの会話ともいえない情報の応答ぐらいで済んでしまいます。

商店街の魅力は、いざわ直子さんの絵にあるように、「お店の人に教えてもらいながら楽しく買い物できる」こと。米は米屋、魚は魚屋といったそれぞれの目利きが、お客の好みや希望に応じてくれます。しかし、そんな商店街もずいぶん少なくなっています。

商店街には、古き伝統のようなイメージがつきまといますが、実際には、「多くの商店街は20世紀初頭の都市化と流動化に対して、よき地域をつくるために発明されたもの」(商店街はなぜ滅びるのか/新雅史 著・光文社)だといいます。

よき地域をつくるために、商店街は法人格を持ち、低利の融資を受けて発展していきました。その保護政策のうまみから圧力団体と化し、消費者の要求と乖離かいりして廃れていった、と述べられています。
商店街の店が次々に閉店し、シャッター通りになっていく様は、多くの地方都市に見られます。郊外型ショッピングモールやコンビニ、そして近年では、本来「よき地域」に人を運ぶためであったはずの鉄道の駅ビル自身が、商店街から客を遠ざけた一因にもなっています。

商店街は、滅びゆくだけのものなのでしょうか。商店街での買い物は、ノスタルジーなのでしょうか。そう断じたくはありません。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2012年09月22日の過去記事より再掲載)