「ていねいな暮らし」カタログ

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暮らし系雑誌の「共通点」——
『可以』

前回に続いて、中国の暮らし系雑誌『可以3』がどのような内容を取り上げているのかについてご紹介したいと思います。

『可以3』は、「健康生活 エコ農場」の特集が組まれています。まず紹介されるのは、成都で有機農業の相互支援組織である「天安生活」を立ち上げた二人のこと。農産物生産の情報共有や市場進出の手伝いから始めた支援活動は、農地訪問や農場ラジオの運営、製品開発、クラウドファンディングまで支援する組織になったといいます。本誌では、天安生活以外にも3ヶ所の農園事業者のところを訪問しています。小さな有機農園を運営する親子の姿や、人智学のルドルフ・シュタイナーによって提唱されたバイオダイナミック農法を実践している農園まで、中国の「新農業者」たちの思いを軸に訪問記の形式でまとめられています。

特徴的だと思ったのは特集ページの分量です。150ページの本誌に対して、1/3を特集が占めています。『ku:nel』の特徴として、「長い文章で構成する」「真っ当な文章と写真があれば、面白おかしく脚色しなくても形になる」「家族のありのままの姿を伝えるだけで成り立つ」
http://www.bionet.jp/2017/11/29/kunel/
がありましたが、その特徴にも似た構成が取られています。写真も、何かをしている風景や無造作に並べられた食材など、農作業の話を聴く流れの中で撮られたスナップ写真が大半で、これが「生活をありのままに読者に伝え」るということのようです。本誌の紙質のザラザラした感じもあいまって、「素材そのもの」へのこだわりが手触りからも感じられる作りになっています。紙質については、『可以3』からの変更点として、「序」のところに次のように書かれています

紙の束の重さ、香ばしいインクの匂い、それは本ならではの魅力であり、電子書籍に替えられない。それを大事にしている私たちはこうして『よい』を紙媒体の雑誌にしている。しかし、紙の生産過程に木の伐採や水への汚染は避けられないものだと知り、私たちは気が重い。健康的な生活を推進する身として、やれることはやっておきたい。『可以3』から、用紙はスウェーデンの「軽型紙」に変え、この紙は「FSC認証」と「PEFC国際森林認証」を持ち、白よりグレー寄りで、自然にも目にも優しい材質である。

『Lingkaran』でも紙質への言及がありましたが、「健康的」であることをうたう本誌において、それを伝えるだけでなく、自らがどのように体現していくのかということと、こういった情報をも知識として共有していくことを重視しているように思われました。

さて、本誌の残りの2/3についてですが、「人、店、物」と題した、一対象につき5、6ページを費やした中編の読み物と、1ページで一つの対象を写真と文章とで伝えるコラムなどが並び、読み物としての側面が強い冊子です。新しい書店の紹介から個人的な思い出の品まで、ページの割付一つをとってみても、どのページ・対象も同じように時間をかけて取材がなされており、対象への思いが実感できる作りになっています。残念ながら、私の手元には3号しかないのですが、他の号もぜひ読んでみたいなと思っています。

(1) 巻末のバックナンバー紹介によると、1号は2014年の夏、2号は秋に刊行され、今回紹介する3号は2015年6月に発行されています。
『可以』のウェブサイト(https://site.douban.com/228557/room/3898063/)では、3号までしか紹介されていませんが、微博(https://www.weibo.com/bachaminiao?is_hot=1)を見ると、4号の表紙も紹介されています。
(2)「バイオダイナミック農法」とは、本誌によれば、月などの天体の動きが植物に与える作用を重視した農業暦を用いて行われる栽培農法のこと。欧米系やオーストラリア系などがあるようです。
(3)薛容「可以生活」『可以3』2015年6月 ※日本語訳は、劉紫儀さんによるものです。

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科准教授。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。