ちいきのたより

Vol.59  郷土の文化を遺すまち並み・筑前の小京都
福岡県朝倉市 建築工房悠山想

二十四節気では処暑しょしょ 七十二候では天地始粛てんちはじめてさむしを迎えます。天地の暑さがようやくおさまりはじめる頃だそうです。

七十二候のとおり、お盆休みが終わったとたんに非日常の気忙しさもおさまり、秋の気配を感じる今日この頃です。

お盆休みは帰省や親戚の集まりなど、お正月と同じようににぎやかな休みを過ごされた方も多いのではないでしょうか。

ここ朝倉市ではお盆料理に“たらわた(鱈の胃)”を食べる風習があります。

朝倉に嫁いで初めて見た時、乾燥した鱈の胃のグロテスクなフォルムと生臭さに『こんなものを食べるの?』と思わず心の中でつぶやきましたが、甘辛く煮て食べると何とまぁ美味しい!!

乾燥たらの胃

朝倉市のお盆料理たらわた

お酒好きにはたまらない!?お盆の郷土料理の紹介でした♪

さて、2回目のちいきのたよりのテーマは『建物に関連したもの』ということで、THE朝倉の観光名所“秋月あきづき城下町”を紹介します!!

前回の投稿は春で、雛祭りや桜の名所で賑わう秋月を紹介するよい季節でしたが、子育て真っ最中の私には休日に子連れで人混みに行くのはハードルが高すぎました

福岡県では桜の名所として知られる杉の馬場や紅葉の時期に一度は観光したことがある人が多いであろう秋月ですが、案外この時期は穴場では?!

というわけで、桜の頃でも紅葉の頃でもないお盆時期の秋月城下町に行ってきました!
甘木の中心市街地から北へ7km。
秋月は標高約860m(859.5m)古処山こしょさんの麓の町で三方を山で囲まれ、南に開けた町です。地理的に攻めにくく、守りやすい盆地にあります。

中世に秋月氏が古処山に山城を築き、秋月氏16代、近世になって黒田氏が12代と城下町としての歴史は大変古く、現在の街並みは黒田氏によってつくられました。

明治までは城下町として賑わっていたのですが、秋月の乱で武家の没落と主要幹線から離れた立地が近代化や開発から取り残され、結果として、城下町の姿は残ったそうです。

さぁ、いざ秋月へ!
川沿いの道を進んでいきます…
秋月城下町への道
目鏡橋が迎えてくれます。

秋月城下町入り口の目鏡橋


目鏡橋は文化7年(1810年)の竣工で、長崎から招かれた石工たちによって築かれた石造の橋で、福岡県の有形建造物だそうです。

野鳥川や緑の景色に溶け込んで、城下町に入るという気配が漂ってきましたね。

筑前の小京都街並み

しっくいと木の格子が美しい筑前の小京都


道沿いには、このような家々が建ち並んでいます。

秋月の町並みは武家屋敷や土塀、苔むした石垣、格子がつづくことから「筑前の小京都」ともいわれます。
たしかに京都の街並みを思い出すような、格子戸が特徴的ですね。


ここで発見!葛本舗!!

筑前秋月博久葛本舗太閤葛餅


創業文政二年(1819年)本葛を造り続けて200年の老舗です。
天然純国産本葛(九州産本くず粉)100%にこだわり、本葛のすべての工程を九州でおこなっているそうです。

秋月土産といえば、この葛製品が定番なんです。

葛粉や葛湯、葛そうめんなどいろいろありますが、今日のおみやげもやっぱり葛餅にしました♪

太閤葛餅

ん~~、この葛餅いつ食べてもこの葛餅のなめらかでもちもちとした食感はここでしかない味ぜひ一度味わってみてくださいね!

まだまだ町歩きは続きます。。。
秋月城下町の駄菓子屋さん
こんな駄菓子屋さんもあります。
空き缶で作った風鈴
軒下には夏の風物詩 ”風鈴”や苔玉、ラムネの旗がありました。
なんとも懐かしい雰囲気に暑さもやわらぎます♪


福岡県指定有形文化財石田家住宅看板
こちらの石田家住宅は平成三年 福岡県指定有形文化財。
西棟は宝暦の大火(1762)後すぐに再建され、東棟は寛政11年(1799)に建てられ幕末に改修を受けた記録があるそうです。
細長い敷地に「みせ」「なかのま」「ざしき」が一列に並ぶ典型的な町屋が並行して建ち、ある時は一棟に併合し、または再び二棟分割するという居住空間の巧みな利用法が特徴とのことです。


同じような形式を持つ家を他にも発見!

秋月城下町の伝統的な家


(注)今回は観光ガイドにはあまり載っていないマニアックな視点でお伝えしています(笑)
さらに山手に向かいます。

途中には盆地の中央を流れる野鳥川。


この野鳥川からの水は、町中の水路を巡り、暮らしに欠かせない要素として景色に溶け込んでいます。

夏の暑さもこの水路のおかげで涼しく感じました。

秋月は秋月豆腐や、手漉き和紙・草木染めなど、この水の恵みを活かした産業が営まれています。
また、甘木あまぎ市街よりも標高が高く、水がきれいな秋月は、お米も美味しいと聞きます。
古処山に向かう途中には、秋の実りを待つ稲が青々と生い茂っていました。
野鳥川と田んぼ広がる棚田
さて、秋月の観光名所はまだ他にあるのですが、観光ガイドではないので町並みについて小話をしてみたいと思います。

突然ですが、質問です!
この隣合った3軒は、どこか似たようで違いますよね?


雰囲気が似ているような?なぜでしょう??

おそらくですが、通りに面した屋根形状(切妻屋根)、通り側へ流れる下屋、屋根瓦の種類、漆喰塗りの外壁と木の格子・板壁といった要素が揃うことで、統一感のある町並みとなっているのだと思います。

それもそのはず、この秋月は平成10年4月に、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。

鹿児島のちいきのたよりでも伝建地区“南九州知覧伝統的建造物保存地区”が紹介されていましたね。

この伝建地区では伝統的な町並みを守るために建築に一定の基準があり、建築する際に様々な規制がかかっています。

例えば、この家もおそらく歴史的風致の維持と形成に配慮して、もしくは調和に配慮して増築・改築・新築がなされたものではないかと思います。
骨董さきやま
また、「伝統的建築物」に指定されるともとの姿に戻す『修理』、環境物件では『復旧』などが求められます。
この際には、伝統的構法(昔ながらの構法)による修理・復旧が必要です。

他にも、町並みを守るためには、建築の制約だけでなく、防災対策も必要ですね。

国の重要伝統的建造物群保存地区の消火栓

伝建地区の防災施設等事業で景観に配慮した消火栓が約70基もあるそうです。
消火栓の箱も景観に配慮して、町並みと調和するようにデザインされていますね。

全国では平成30年8月17日時点で118カ所の伝建地区がある中、城下町としての指定は秋月を含めて4ヶ所しかないそうです。

ちなみに、福岡県には伝建地区が秋月を含めて5箇所あります。

  • 八女市八女福島
  • 八女市黒木
  • うきは市筑後吉井
  • うきは市新川田篭
  • 朝倉市秋月

どれも建築工房悠山想からは車で1時間かからない距離にありますよ。

都市部では民家単体で残されていたとしても、まち全体で保存されているのを見る機会はないですよね。

町並みを守るということの難しさがこれを物語っているのだと思います。

このまち並みを後世に残していくためにという、この地域に住む人々が代々守ってこられたものを今後も守っていくという意識と誇りが文化になっていくのかもしれません。

どの伝建地区にも町をさっと歩いただけではわからない住民の方々の維持・保全への努力がたくさんあるのだと思います。

この機会に伝建地区をゆっくり歩いてみませんか?

私も伝統的な町並みを散策して、どこか懐かしい風景に心癒された一日でした。

福岡長屋門の石階段県指定有形文化財 長屋門

桜の名所 杉の馬場にあります。今回は杉の馬場は紹介しきれませんでしたが、秋月にはこんな情緒ある景色にたくさん出会えます。

昔ながらの町並みや古民家好きな方、ぜひ朝倉に遊びに来てくださいね!

悠山想坂口奈津紀
ちいきの記者
坂口奈津紀 さかぐち・なつき
神奈川県に生まれ育つ。学生の頃から趣味は古民家や伝統的な街並みを見て回ること。東京の設計事務所にて伝統的構法による木造住宅の設計を学んだ後、福岡にIターン。巡りめぐって悠山想にたどり着き、そのまま朝倉市のぶどう農家に永久就職。自然の中で子育てしながら朝倉の魅力を発掘中!

 

福岡県朝倉市中原字八反田280-3建築工房悠山想施工事例
(有)建築工房悠山想けんちくこうぼう ゆうざんそう
福岡県朝倉市中原字八反田280-3
TEL:0946-21-5076
URL:https://yuuzansou.jp

悠山想の思いは自然の摂理の中で生きていく家づくりと生き方を目指すこと。福岡県朝倉市に事務所を構え、“100年もつ家は4世代が暮らすことができるもの”を目指し、長持ちする健全な構造、耐久性のあるデザイン、快適な温熱環境の住まいを設計しています。社員大工による手刻みと左官職人の塗り壁といった伝統的な手仕事にこだわり、職人の技術と共に日本の気候風土にあった現代の民家を次世代に繋げます。

ちいきのびお参加工務店さん全国図

ちいきのびお