色、いろいろの七十二候

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鷹乃学習・暑中見舞

暑中見舞いを書く
画/いざわ直子
こよみの色
小暑
空色そらいろ #A0D8EF
・淡い明るい青色。空の色に規定はないため、この色は、明るい青を総称する名前。
鷹乃学習
白群びゃくぐん #83CCD2
・白っぽい淡青色。藍銅鉱(アズライト)を細かい粉末に砕いてできる白っぽい顔料の色。粒子が細かくなるほど色が薄くなり、粒子の状態や色の濃淡から群青紺青白群と呼び名が変わります。

小暑の末候、鷹乃学習のテーマは「暑中見舞」。その名の通り、暑くなる時期に、相手の安否を訪ね、自分の近況を報告する便りとして使われています。元々はお盆の訪問・贈答の風習を、遠方への相手に対して簡略化することからはじまったようで、正月の挨拶が年賀状に変わっていったことに通じるところがあります。

2013年の年賀状の発行枚数は約36億枚でした。これに対して、暑中見舞い用の「かもめーる」は約2億5千万枚と、ずいぶんな開きがあります。やや儀礼的な面がある年賀状に対して、暑中見舞いは、暑い時期に相手を気遣うということもあり(数も多くないこともあって?)、年賀状よりも、気持ちが伝えやすい便りかもしれません。

様式が複数出現してくると「より古いほうがフォーマルになり、格上げされる」という話があります。暑中見舞いも、本来は「盆の挨拶」という上位の手段があり、その簡易版としての郵送であったはずで、直接の挨拶に比べればインフォーマルだったはずの行為ですが、今ではむしろ、気持ちを伝える丁寧な行為に感じられます。

さて、この「格上げ」は、季節のあいさつだけにとどまりません。

この連載の、いざわさんの絵には、みなご本人の手による一文が添えられています。これらはみな「縦書き」によるものです。
一方で、連載の文字の部分は(この文章も含めて)、よほど特別なことがなければ、みなさん「横書き」で読まれているはずです。では縦書きと横書きではどちらが「格上」か。先の、出現が古いほうがフォーマルである、という理論でいけば、縦書がそうである、ということになります。

この説は、『横書き登場(屋名池誠著・岩波新書)』で取り上げられています。

筆と万年筆が並びおこなわれていた大正時代の手紙作法書には、目上には万年筆で手紙を書いてはいけないとあるが、筆が実用の場から遠ざかり、ボールペンが出現すると、万年筆は正式な筆記具に格上げされた。今やボールペンでも手書きの方が、ワープロ打ちより丁寧に感じられる。
 現在、私文書は縦書きでも左横書きでも書けるので、より古い縦書きの方が丁寧な感じを与えることになっているわけである。(『横書き登場』より)

この筆記具の位置づけの推移については、少しさみしいながらも、わかる気がします一方で、縦書きと横書きには、そんなことでは片付かない違いがある、という説もあります。

『縦に書け!(石川九楊著・祥伝社)』では、紙は天地を持つ空間であり、それは一枚の紙切れが世界へ転化することだ、と述べています。天から地へ向かって書く、ということは、宗教に変わる宗教性であると。

意味を伝達するための文字と、書のように、それ自体に意味がある場合とで、考え方をわけるべきか否か、ということかもしれません。

電子書籍などの一部を除いては、コンピュータ、スマートフォンなどの画面の文字は横書き一色です。やはり英語等、左から読む横書き言語圏で発明されたものだけに、それがスタンダードになっているようです。OSは右から左に流れる言語にも大抵対応していますが、普通は縦書きにはなりませんね。

今は絶滅してしまった「日本語ワープロ専用機」も、当初から横書き用でした。ビジネス文書が横書き主体になっていたこともありますが、ブラウン管の走査線が横方向で、画面も横長であることもあり、日本でも電子情報は横書き、というのが定着しています。

WEBブラウザで見る文章も、縦書きの規格があることはあるのですが、ブラウザの種類によって対応していなかったり、そもそも英語やアラビア数字が多く混ざる場合の表現しにくさもあって、一般のコンテンツにはほとんど使われていません。当「びお」では、山口由美さんの人気連載小説 ジャパネスク富士屋ホテル物語 以外全て横書きです。

ケータイ小説などは、その出自もあって出版時にも横書きになっているようです。一方で、縦書きが出来ても横書きを選ぶ、ということもあります。
史上最高齢の芥川賞作品となった「abさんご」は、同時に芥川賞初の横書きであり、その電子版も横書きでレイアウトされています。はじめに画面ありき、ではなく、明確に横を選んだ例です。

日本では、新聞や書籍、漫画の吹き出しは縦書きが基本ですが、中国や韓国の新聞はすでに横書き化されています。DTPのアプリケーションも、主流は英語圏のもので、縦書き対応はどうしてもおろそか、後回しになりがちです。グローバルでスピーディなものが正義、な世の中では、縦書きよりも横書きが有利なことは、間違いないようです。

コンピュータを使って仕事をしていると、縦書きで何かを書く機会が激減していることに気づきます。手書き文字すら滅多に書かないのに、縦書きとなると、一日に一度もない、という日も珍しくありません。
先日7/7は七夕でした。七夕飾りの短冊に書く願い事。これもやはり、手書きの縦書きです。暑中見舞いと合わせて、1年で、最も縦書きの手書きが行われる時期、なのかもしれません。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2013年07月07日の過去記事より再掲載)