「ていねいな暮らし」カタログ

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アメリカ発の”Small Gatherings”
——『KINFOLK』

今回は、アメリカはオレゴン州ポートランドで創刊された『KINFOLK』について取り上げてみたいと思います。海外でも暮らし系雑誌はいくつも出されていますが、その中で日本でも有名なものと言ったら、本誌の右に出るものはないのではないでしょうか。本誌については、個人のブログや研究論文など、さまざまなメディアで言及されていますので、この連載でも数回に分けて取り上げて見たいと思います。

すでによく知られているように、『KINFOLK』はネイサン&ケイティ夫妻と二人の友人夫婦によって、2011年7月に創刊しました。当初はオンライン・マガジンとして始まり、その後サンフランシスコのWeldon Owenから紙雑誌として刊行されましたが、7号からは独立しています。日本では、洋雑誌として異様な売れ行きを見せていたとの記述もあり1、日本版が2013年にネコ・パブリッシングから発行されています。本誌は、書店の暮らし系雑誌棚の中でもひときわ分厚い(毎号だいたい180ページほど)雑誌です。初期の表紙は上部1/4が白地にタイトル、それ以外の部分にパステルカラーを基調とした写真が使われ、本誌の内容については下部に小さく付されるのみとなっており、静謐せいひつなイメージを前面に出す形となっています。

本誌の基本コンセプトは、”a guide for small gatherings”=「小さな集いのための手引き。」です。例えば、家族や友人たちと過ごす食事をどのように(特別なものとして)過ごすかなどを提案し、”kinfolk”=親戚という言葉に表れるような、身近な物ごとや身近な人たちとの関係性を見直すための指標が、長めの文章と「インスタグラムっぽい」写真とで構成されています2

ここまでを見てもわかるとおり、『KINFOLK』は、自分たちのライフ(スタイル)を見直すことが全体のテーマで、それを伝えるレイアウトはミニマルな形を取り、こういった雰囲気をフォローする人たちがインスタグラムを中心に現れただけでなく(ましかく写真!)、本誌がポートランドという、いまやライフスタイルの代名詞となった一都市から刊行されたことなど、これまでの『クウネル』や地域文化誌の分析の中で取り上げた観点が見事にミックスした事例が『KINFOLK』からも見えてきそうです。次回以降では、『KINFOLK』のレイアウトや反響に着目しながら、日本の暮らし系雑誌との共通点や相違点について考えてみたいと思います。

(1) 日本版『KINFOLK』編集長に聞く、10年先の未来よりも今を大切にする理由|クリエイティブの求人情報サイト CINRA.JOB https://job.cinra.net/shigoto/kinfolk/2/ 2019年4月18日参照。
(2) この「インスタグラムっぽい」という点は、Summer Allenのブログの中でも批評的に言及されており、彼女は「Kinfolkっぽいインスタグラム写真」を集めたTumblrサイトも開設しています。参照:THE KINSPIRACY ( https://thekinspiracy.tumblr.com ) 2019年4月18日参照。

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科准教授。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。