ちいきのたより

Vol.39  変わりゆくものと、そうでないもの 
大分県大分市 木楽舎 あんどう住宅設計室

いよいよ立夏を迎え、山の緑と海の青がいっそう色濃くなる頃となりました。

深い山々と海に囲まれた大分にも、様々な旧跡が点在しています。
その中でも今回は、「今市いまいちの石畳街道」と「後藤家住宅」を訪ねてみようと出かけました。


『今市の石畳街道』

大分市の中心部より北へ、車で小一時間走ったところに「今市の石畳街道」はあります。

今市の石畳街道の地図

googleマップより


その名の通り石畳が敷かれた街道が保存されている場所で、大分県の指定文化財となっています。
今市の石畳街道入り口

今市町は江戸時代の参勤交代の宿地として栄え、加藤清正が整備し、伊能忠敬が通り、坂本竜馬と勝海舟が宿入りしたという、歴史の生き証人のような場所です。
歴史の道肥後街道参勤交代道路の看板

入口の小さな坂を上ると徐々に見えてくる石畳。
ゾクゾクが止まりません(笑)
肥後街道の石畳街道入り口
今市の石畳街道登り口

江戸時代に立ち並んでいたはずの宿やお店は姿を消し、今は住居やお寺、空き地が目立っています。
大分市今市の石畳街道

石畳自体は素朴に敷き詰められている印象です。
大分市肥後街道石畳街道の整然と並べられた石

石は大きいもので90cmほど。
今市の石畳街道にある約90cmの大きな石

全長660mもの街道ですが、途中でクランク状に曲がっています。
これは万が一の火災の時、火が燃え広がるのを遅らせるためなんだとか。
石畳街道の信玄曲がり竹林跡付近の地図

竹林だった場所は、消防団の集会所になっていました。
石畳街道竹林跡の直角に曲がるクランク

その近くに、何とも気になる場所が・・・
石畳街道にある逃げ道と逃込み寺跡

一体、ここでどんな人間ドラマが繰り広げられていたのやら・・・

大分市石畳街道の逃げ道石畳街道の逃げ道



そして街道を抜けると、「丸山八幡神社」に行き当たります。
石の階段をのぼった上に建つ立派な楼門ろうもんは、大分市の指定文化財になっているそうです。

大分市丸山八幡神社の楼門


この楼門に彫られた龍があまりにもよくできていたため具現化し、人々を困らせたという言い伝えがあるとのこと。
丸山八幡神社の龍の彫刻

確かに、今にも動き出しそうな迫力があります。

その他にも精巧な彫刻の数々が。
丸山八幡神社にある赤ちゃんとお母さんと農民の彫刻丸山八幡神社のタケノコと人の彫刻

どうも海外の影響を色濃く受けているようです。

柱を支える束石つかいしも、水切れを良くしながら見栄えも良くなるようにデザインされています。
大分県丸山八幡神社にあるデザインされた束石

毎年10月には、石畳に竹灯篭を無数に置く「竹灯り」が行われるそうなので、いつか参加したいものですね。

大分丸山八幡神社の竹灯篭の様子大分市観光協会HPより

そういえば、今市街道に建つ住居のいくつかは、方杖ほうづえが特徴的でしたが、何か宗教的な意味があるのでしょうか?
今市市の石畳街道沿いの民家には特長的な方杖

今市市石畳街道沿いの民家

美しい彫刻の方杖がある大分市の民家

観光地として華々しく整備されている場所ではありませんが、遠い昔に栄えた町並みを思いながら歩く時間はとても有意義に感じました。
大分市丸山八幡神社の美しい楼門屋根

大分石畳街道の杉木立ち


『後藤家住宅』

次に向かったのは、「大分市で最古の民家」と言われる「後藤家住宅」です。
「今市の石畳街道」から、車で約20分くらいの場所にあります。

こちらは国の重要文化財に指定されています。
大分市で最古の民家と言われる国の重要文化財後藤家住宅

18世紀の中頃に建てられた指定重要文化財後藤家住宅大分市教育委員会


元は小さな庄屋の家として、18世紀中後期ごろに建てられたとのこと。
その後、数度の改修を経て現在の姿に至っています。

国の重要文化財後藤家住宅の茅葺き屋根の軒下

後藤家住宅の基礎

大分の最古の民家で国の重要文化財の後藤家住宅の土壁


外の柱を挿げ替えたり、畳を敷き直したりと、手を加えながら風合いを重ねています。
少しずつの手入れでとても長持ちする、そんな軽快さを感じさせます。



この建物に入って強く感じたのが、暗さです。
敷地が南北に細く長く東の敷地が上がっているため、西に開かざるを得なかったという事情があるためです。
大分の最古の民家後藤家住宅の俯瞰図

googleマップより


「ないしょ」から西を見た写真がこちら。
後藤家住宅の囲炉裏がある部屋

「こんなに暗い空間で一日過ごすのは、苦痛ではなかったのか・・・?」と不安になってしまうほどです。

しかし、気づいてしまいました、ある仕掛けに!
窓を開けて明るくできる重要文化財の後藤家住宅

天井から下がっていた紐に開き戸を引っかけるだけの、いたってシンプルな構造。寝殿造の「しとみど」のように、戸の上部に蝶番が付いていて、跳ね上げて開けることのできる戸なのですが、効果は絶大です。
茅葺き屋根の軒天が見える後藤家住宅の窓辺

しかもしかも、驚くことに……、
大分の最古の民家後藤家住宅のないしょから撮った景色

もはや、プラモデルのよう。(笑)
本当に簡単な仕掛けですが、これがあることで住人の暮らしが見違えるほど豊かになったことは、想像に難くありません。

後藤家住宅の壁を外せる窓の設備

茅葺き屋根の国の重要文化財後藤家住宅
大分市の最古の民家後藤家住宅の縁側

「暗ければ、壁を外して明かりを入れればよい。」
こんなにもシンプルで、とても健全な発想が、今の私たちにはなかなか難しいような気がします。

強固に、そして高性能に作ることを競う住まいづくりに浸りきってしまっているからでしょうね。
今こそ、少し立ち止まって考えてみるべきなのだと思います。
大分市後藤家住宅にいた猫

安東洋輔
ちいきの記者
安東洋輔あんどう・ようすけ
大分市で生まれ育った34歳(2018年11月現在)の半端者。2013年に高校教師を辞め、父が営む工務店に入社しました。設計・営業・企画広報などドタバタと仕事をしながら、少しでも幸せをバラまけるように悩み多き日々を送っています。動物が好きで猫アレルギーも根性で治しました。趣味は器収集とギター。代金は負担するのでCD買ってください。

 

木楽舎 あんどう住宅設計室
(株)木楽舎 あんどう住宅設計室きらくしゃ あんどうじゅうたくせっけいしつ
大分県大分市椎迫1組の2
TEL:097-544-4554
URL:https://www.kiraku-no-ie.jp
大分県大分市を中心に木の住まいを造る工務店です。「新しいけど、懐かしい」をテーマに流行に流されない住まいづくりを心がけています。お施主さん・工務店・職人さんの信頼関係を最も大切にしながら、パッシブデザインで陽と光と風にあふれる、エアコンに頼らない暮らしを目指します。

ちいきのびお参加工務店さん全国図

ちいきのびお