びおの珠玉記事

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春のタマネギ

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年3月26日の過去記事より再掲載)

新タマネギ

「旬」の話をするときに、年中出回っているけれど本当の旬は…という食品がとても多いと感じています。
今回のテーマ「タマネギ」も、まさにそんな例です。
たまねぎを料理する

玉葱たまねぎの命はかなく剥かれけり  久保田万太郎

かつては夏場に多く出荷されていた、とのことで、タマネギの季語は夏です。
けれど、今では一年中通して出荷され、手に入ります。夏の野菜というイメージはありません。

タマネギの国内生産の6割以上は北海道で、他県を圧倒しています。北海道のタマネギは、9月〜3月ごろまで出荷され、次いで生産2位の佐賀産タマネギが、4月から8月ごろまで多く出荷されます。
タマネギは、こんなぐあいに、気候の違う産地から年中出荷されています。さらに、乾燥させることで日持ちもします。そういうわけで、年中食べられる野菜です。
軒に吊るした玉ねぎ

吊るされて玉葱芽ぐむ納屋深くツルゲエネフを初めて読みき 寺山修司

けれど、今だけしか食べられないタマネギもあります。
みずみずしくて、甘味があって。それが「新タマネギ」です。
タマネギ
新タマネギの出荷が一番早いのは静岡県で、年明け1月頃から出荷されはじめ、3月にはピークを迎えます。
季語は夏のものだけど、タマネギの旬は春、と断言してしまいましょう。

そんなに古くない歴史

爆風スランプに「大きな玉ねぎの下で」という曲があります。
「屋根の上に光る玉ねぎ」という歌詞が指すのは日本武道館。
日本武道館
たしかにタマネギ状のものが乗っています。
あれは「擬宝珠ぎぼし」で、宝珠に似せたから「擬」宝珠だ、という説や、葱帽子(ネギの花)に似ているから「ねぎぼうし→ぎぼうし」だ、なんていう説があります。同じくネギの花に似ているので「葱台そうだい」ともいいます。
擬宝珠は寺院だけでなく、神社や橋などにも使われています。
擬宝珠
ネギ類の臭気は邪気払いになる、ということで葱帽子・葱坊主を模した、だから仏教以外のところにもつかわれるという説は、一見それっぽいものですが、仏教ではネギ類は「五葷ごくん※1」のひとつとして禁忌とされていましたし、仏教の宝珠が神社に使われていることも、かつての神仏習合しんぶつしゅうごうを考えれば不自然ではありません。

やっぱりあれは、ネギではなくて、宝珠なんじゃないでしょうかね。

そうそう、ネギが日本に伝わったのは古く、日本書紀にも記述がありますが、タマネギは観賞用としては江戸時代、食用には明治に入ってからといわれています。タマネギは中国経由ではなく、ヨーロッパ経由で日本に伝来しています。こうしたことからも、少なくとも、タマネギがモデルではなさそうです。

どうして禁忌なのか?

タマネギが仏教で禁忌だったのはどうしてでしょうか。「五葷」とは、タマネギのほか、ニンニク、ニラ、ネギ、ラッキョウ(タマネギが日本で食べられるようになったのは明治になってからなので、かわりにアサツキ、とされていたようです)。

これらはみな、ネギの仲間です。かつてニンニクやタマネギは、エジプトのピラミッド工事の日当としても使われていて、滋養強壮効果がある、とされてきました。

要するに、元気が出すぎるから修行に相応しくない、ということのようです。修行していないみなさんは、普通に食べる分にはおおいに結構、ですけれど、食べ過ぎには要注意。

独立行政法人 国立健康・栄養研究所の『「健康食品」の安全性・有効性情報』では、タマネギもとりあげられています。

沢山食べ過ぎると胃腸の不調が起こること、コレステロールを下げるとか、血圧を下げるとかについての、ヒトでの有効性については信頼できるデータが見当たらない、とされてしまっています。

あらあら。
タマネギで血液サラサラ、なんていう話をよく聞きますが、これはいったい…。

もっとも、血液サラサラ、というヤツも、はっきりした定義があるわけではありません。
「発掘!あるある大事典」や「ためしてガッテン」などの番組が好んで使うフレーズですが、それを目的にタマネギを食べ過ぎる方が、むしろ害になるかもしれません。

限られた時期だけ食べられる新タマネギです。健康によいからとドカ食いするのではなく、楽しんで調理して、適量を美味しく食べましょう。ごちそうさま。
オニオンスライス

※1:仏家ではニンニク・ヒル・ニラ・ネギ・ラッキョウの五種、道家ではニラ・オオニラ・ニンニク・アブラナ・コエンドロの五種をいい、これを食べると淫欲・憤怒が起こるとして禁られています。

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