ちいきのたより

Vol.31  朝倉・水のふるさと 
福岡県朝倉市 建築工房悠山想

二十四節気では春分 七十二候では次候である桜始開さくらはじめてひらくを迎えます。

今回のちいきのたよりは、ここ朝倉市からお届けします♪

私の住む福岡県朝倉市では桜の開花が始まりました!
この桜の時期は「筑前の小京都」と呼ばれる秋月あきづき城址の杉の馬場や甘木あまぎ公園が福岡県の花見の名所として知られ、多くの花見客で賑わいます。
桜の花がこの春の新しい始まりに向かう気持ちを軽やかにしてくれる、そんな季節がもうそこまで来ていますね♪

さて、朝倉市ってどんなところ?
どこかで聞いたことがあるような…という方が多いのでしょうか?

朝倉市は福岡県のほぼ中央に位置し、自然豊かな山に囲まれた寒暖差のある気候で、県内でも有数の農業地域。柿や梨などの果物から、青ネギやタデなどの野菜、パンジーやシクラメンなどの花苗に渡り、様々な農産物が生産されています。
秋には福岡市内などからくだもの狩りに訪れる人も多いフルーツの産地!

さてさて、福岡県外の方たちに紹介するにはどこがよいだろうか? …小京都 秋月? 果樹園? 卑弥呼伝説? などと考えてみましたが、今回は “水のふるさと” 朝倉を紹介してみたいと思います!

朝倉市には、山田ぜきという世界に誇る日本の技術がなんと江戸時代からあると聞いたので、さっそく山田堰に行ってきました♪
朝倉市山田ぜきマップ
山田堰は大小の石を水流に対して斜めに敷き詰めることで、筑後川の勢いを抑えつつ用水路に水を導く、日本で唯一の石畳堰。1790年代に完成し、その後何度も補強工事が行われたが、全体の形や石はほぼ当時のままといわれています。
山田ぜき
この山田堰の工法は大がかりな機材がなくても造れることが特徴で、生態系への影響も少なく水田に水を引く灌漑かんがい設備として、ペシャワール会によってアフガニスタン復興支援の灌漑用水モデルとして活用されていることから注目されているそうです。


山田堰と堀川用水及び水車群は灌漑用水として用いられ、多くの圃場ほじょうを潤し、米の生産を高めました。
朝倉地区の水車群
全国で水車が廃止されポンプに変わる中、この朝倉でも水車群の存続について様々な困難な場面もありましたが、先人の残した歴史的農業遺産を守ろうと、農家の理解により220年存続しているそうです。

堀川用水

三連水車の里あさくらという道の駅があるように、この水車は田んぼのシーズンは今でも現役で働く朝倉のシンボルです!

利便性、時間の短縮や経済性ばかりを求められることが多くなった時代に、先人の残してきた歴史を次世代に繋ぐことはどの分野でも決して楽ではないと思います。

悠山想の仕事も職人の技術や伝統を次世代に繋ぐという思いがなければ、続けることは難しくなってしまうことがわかるからこそ、水車を守り残してきた先人たちの思いがこれからも繋がっていくことを願っています。

そして最後に「寺内ダム」に行ってきました!

寺内ダムは朝倉市にありながら福岡都市圏の水源です。


このダムのある山間の高木・黒川地区は梨の産地で、6月頃にはホタルの名所として知られています。

私が朝倉市に来て間もない2017年の6月、この黒川地区に行き、まるでクリスマスツリーの電飾のように木々を乱舞するホタルに感動したのを今でも鮮明に覚えています。あんなにたくさんのホタルが飛んでいる光景は初めてだったので、また来年も見に行こう~‼ と思っていました。
寺内ダム付近
しかし、ホタルが多数生息するほど豊かな自然のある地域で、その1ヶ月後の2017年7月、九州北部豪雨災害が起き、朝倉市が日本中に報道されることになりました。

このときの豪雨により高木・黒川地区は甚大な被害を受け、1ヶ月前にあったはずの美しい景色がたった1日でなくなってしまったと知ったときは何とも言えない思いになりました。

九州北部豪雨災害で流れてきた瓦礫

豪雨災害2〜3週間後

九州北部豪雨災害での自衛隊災害派遣九州北部豪雨災害で氾濫した川九州北部豪雨災害での土砂崩れ

幸いにも私の住まいや会社周辺は市街地だったのでほとんど被害はありませんでした。しかし、ものすごい量の雨が降り続く中、他の地区の被害状況が報道されているのを見て、東日本大震災を関東にて体験していた私は、その時と似たような感覚を身体で感じていたのを覚えています。

翌日から会社では、前年の熊本地震の際の教訓から、水をタンクに入れて関係者に届けたり、福岡、佐賀、熊本の建築関係者のネットワークから援助活動の必要性、被害状況の確認などの連絡がありました。

朝倉市民となり、微力ながら何かできることがあればと被害の大きかった地区の泥出しのお手伝いに参加させていただいた際には、被害に遭われた方のほうがボランティアに気を配り、差し入れなどをしてくださいました。
辛い思いをしているのに自分のことより他者を気遣い合う心と、ご近所同士が助け合う姿を見て、都市圏では薄れつつあるものを感じました。

あれから1年8か月、日常の中で少しずつ記憶が薄れていく中、被害の大きかったところでは、今も復興に向けて復旧工事が進められています。

広場には今も土砂が山のような高さに積まれていました。


ニュースで多く報道された比良松ひらまつ中学校周辺も現在復旧工事中

まだ仮設住宅やみなし仮設で生活されている方々も多くいらっしゃいますが、徐々に復旧して日常生活を取り戻しつつあります。
完全に元の姿を取り戻すことはできませんが、朝倉の豊かな自然を次世代に繋げていけたらと思います。

復興に向けて前向きに進んでいくのに大事なのは、きっと人の温かさです。

がんばろう!朝倉・東峰

豊かな水源に育まれた美味しい農産物をたくさん食べてください~!
みなさん、朝倉に遊びに来てくださいね!

悠山想坂口奈津紀
ちいきの記者
坂口奈津紀 さかぐち・なつき
神奈川県に生まれ育つ。学生の頃から趣味は古民家や伝統的な街並みを見て回ること。東京の設計事務所にて伝統的構法による木造住宅の設計を学んだ後、福岡にIターン。巡りめぐって悠山想にたどり着き、そのまま朝倉市のぶどう農家に永久就職。自然の中で子育てしながら朝倉の魅力を発掘中!

 

福岡県朝倉市中原字八反田280-3建築工房悠山想施工事例
(有)建築工房悠山想けんちくこうぼう ゆうざんそう
福岡県朝倉市中原字八反田280-3
TEL:0946-21-5076
URL:https://yuuzansou.jp

悠山想の思いは自然の摂理の中で生きていく家づくりと生き方を目指すこと。福岡県朝倉市に事務所を構え、“100年もつ家は4世代が暮らすことができるもの”を目指し、長持ちする健全な構造、耐久性のあるデザイン、快適な温熱環境の住まいを設計しています。社員大工による手刻みと左官職人の塗り壁といった伝統的な手仕事にこだわり、職人の技術と共に日本の気候風土にあった現代の民家を次世代に繋げます。

ちいきのびお参加工務店さん全国図

ちいきのびお