「ていねいな暮らし」カタログ

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「あたらしさ」として意識を捉える——『murmur magazine』

本連載の第11回の『Lingkaran』の回で、「心とカラダ」について「内面」からアプローチする見方を「暮らし系雑誌が取り上げる話題の一つの柱」とお伝えしました。この文章を書いた時に対象雑誌として私の頭の中にあったものが『Lingkaran』と、この『murmurマーマー magazine(以下、マーマーとします)』でした。

『マーマー』は編集長の服部みれい氏を筆頭に、彼女が言うところの「スピリチュアル」な物事の見方を非常に大事にしています。FRAMeWORKから独立し、リニューアル号として発行されたno.15(2012年3月発行)ではいくつもの連載が開始されますが、これらの連載では前世の話や魂の話、自然と調和する日本人の精神性の話など、読み手によって判断が分かれる「スピリチュアル」なトピックが並びます。その多くが、書き手の一人称語りや服部氏のインタビューの形式で聞き取られ、平明な言葉で表現されていることもまた特徴的です。

この時の『マーマー』は、「古くてあたらしい日本」(no.15)という特集タイトルにも表れているように、日本の古い文化や言い伝えを「あたらしさ」として捉えるという視点を取ります。このことは、地域文化誌の回で語った内容にも近いかもしれません。連綿と伝えられてきたとされる慣習や、より「自然」な方法でつくられた物を食べるといった昔は「普通」だったことが今や忘れ去られており、それを今改めて発見し、実践するのだというストーリーです。着るもの、食べもの、体のメンテナンスの仕方を中心に、その時々の消費や流通のあり方とは異なる「あたらしさ」を、現在進行形の実践者や思想家の語りを中心にまとめます。レイアウトとしては、4段組の文章で、手書き文字やイラストを交えながら伝え、手作り感が強い印象があります。「日記」というスタイル(=これも一人称語りですね)も好きなようで、あらゆる体験を日記形式に書き綴り、細かな字で大量の文章を載せることもよくやられていますし、それらは書籍としてもまとめられています。

2017年11月1日発行の『BRUTUS』では、服部氏がイラストと文章とを担当した「日本のスピリチュアルマップ」が掲載されていて、その文章によると服部氏が「スピリチュアル」にハマるようになったのは2000年代に入る頃からで、それまでは「食わず嫌い」をしていたとのこと。この「マップ」自体、「太古」〜ニュー・エイジ〜YOGAブーム〜スローライフブームとあらゆるものがいっしょくたにマッピングされていて、「2000年代スピはカジュアル化」とまとめられているのですが、『マーマー』もまたその時代の産物として捉えてよいのでしょうか…?

この『マーマー』は、2016年にまたリニューアルし『まぁまぁマガジン』としてスタートしています。内容も「詩とインタビューの雑誌」と様変わりし、これまでの「スピリチュアル」な健康法や暮らし方のヒントについては、『murmur magazine for men』やウェブサイトに譲ったとのこと。こちらはまだ始まったばかりでありますが、この「あたらしさ」がどのように継続されていくのか、注視していきたいと思います。

(1)服部みれい「服部みれいがざっくり振り返る 日本のスピリチュアルマップ。」『BRUTUS』2017年11月1日、pp.70-71.

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科准教授。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。