びおの珠玉記事

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ハレの日の旬・ケの日の旬
主役級の名脇役・ネギ

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2013年11月02日の過去記事より再掲載)

ねぎ畑

11月に入りました。七十二候は霜降の末候・楓蔦黄、もみじなどが黄葉する頃です。
植物の葉が緑に見えるのは、葉緑体に含まれるクロロフィルによるものです。クロロフィルは光合成のために光を吸収しますが、ある波長の光は利用せずに反射します。この波長の光が、緑色に見えるのです。

もみじなどが黄色く見えるのは、カロテノイドの色です。カロテノイドはもともと葉の中にありますが、クロロフィルの緑が多いうちは目立ちません。秋から冬を迎え、葉を落とす時期になるとクロロフィルの生産が抑えられ、結果としてカロテノイドの黄色が見えるようになる、という仕組みです。

葉ネギと根深ネギ

クロロフィルは、陽に当たることで作られます。これを逆手に取って、陽の光にあてないことで、白い部分をつくったのが、白ネギです。
白い部分と緑の部分は、どちらもネギの葉にあたります。土寄せをして、葉の部分を土の中に埋めることで、白いネギが出来上がります。こうした育て方のネギを、「根深ネギ」と呼びます。

西日本では、ネギというと緑の部分が多い「葉ネギ」を指し、東日本では白い部分が多い「根深ネギ(白ネギ)」を指すのが一般的といわれています。関西の人が関東のネギを見て、食べるところがない、といった、という逸話があります。今では全国に各地のネギが流通しますから、そんな驚きもなくなったかもしれませんが、所変われば食変わる、の典型として面白い例ですね。
みなさんの地域では、「ネギ」はどちらを指しますか?

死人も蘇るネギ?

ネギは周年出回りますが、根深ネギは寒い時期に甘みが増し、おいしくなる冬の野菜です。11月頃から出荷がピークを迎えます。
中国では紀元前から栽培されていたという古くからある野菜で、日本には奈良時代以前に伝わったようです。

ネギの香りの元でもある硫化アリルは、老廃物を排出し、疲労回復効果を持っています。また、ビタミンB1の吸収効率を高める役割もあるため、ビタミンB1を多く含む食品(豚肉や大豆、鶏レバーなど)との組み合わせもお勧めです。
解熱消炎機能もあり、風邪の予防にも効果があります。喉がいたいとき、湿布代わりに喉に刻んだネギをあてておくと効き目があります。

貝原益軒の「大和本草」巻之五には、ネギの効果を数ページにわたって記しています。
なかには、
「頓死ニタル人ニ葱の茎ヲ男ハ左女ハ右ノ鼻ニ七八寸刺入血出テ蘇ル」
などという、ものすごい表記があります。
これはちょっとオーバーだとしても、ネギには多大な薬効があります。
仏教では「五辛」の一つとされ、禁戒とされています。 他の4つは、ニラ、ラッキョウ、ノビル、ニンニク。みな辛味や臭気がつよく、精力がつく野菜ばかりで、これらは仏教の修行の妨げになると考えられていたようです。

下仁田ネギで有名な群馬県下仁田町には、ネギにまつわる江戸時代の手紙が残されています。
武士から名主宛に送られたもので、ネギ200本を至急送れ、運賃はいくらかかってもかまわない、という内容のものです。下仁田ネギは、下仁田以外の畑ではどうにも上手く育たない、という特殊なネギです。今では他の地域で作付けできる下仁田ネギも出回っていますが、本場の下仁田ネギとは、ひと味もふた味も違うそうで。

下仁田ネギ

下仁田産ではない下仁田ネギ。太さが特長。

あまり嬉しくないネギの話

ネギは、主役を張ることは少ないものの、食卓に欠かせない名脇役です(もちろん主役で食べても美味しいのですが)。
ところが、最近、この「ネギ」が報道に頻繁に登場するようになってしまいました。
阪急阪神ホテルグループの一連の「誤表示」問題です。
運営するレストランで出されたメニューに「若鶏の照り焼き九条ねぎのロティと共に」というものがあります。実際に使われたのは、ホテルの説明によると「メニューには「九条ねぎ」と表示しておりましたが、一般的な青ねぎ、白ねぎを提供しておりました。」とのことです。
同ホテルグループが発表した誤表示では、他にも多数のメニューがあるのですが、なぜか九条ネギの報道が目立っている気もします。九条ネギは京野菜の一つで、一般的な青ネギ、白ネギよりも値段が高いものです。

九条ネギと白ネギが入れ替わっていたらわかるかな…と思うのですが、白ネギの、葉の部分を使ったんでしょうかね? ホテルの言い分では、「添え物の野菜変更は伝えなくてもいいだろう」とのことです。メニューに名前のあるものを「添え物の野菜」といってしまうところが、これまた苦しいですが…。

条ネギ

九条ネギ。なぜかこれにスポットライトがあたってしまうとは。


一般的な白ネギ

いわゆる一般的な白ネギ。泥付きだと保存性が高まります。


ねぎ焼きのコチュジャンソースがけ

ネギは大抵脇役ですが、それ単体でも相当旨い野菜です。ねぎ焼きのコチュジャンソースがけ。これだけで一杯いけちゃう。

ネギはなかなか主役になり難い野菜ですが、一方で食卓に上らない日はない、といってもいいほど、さまざまなところで活躍します。生でも良し、焼いて良し、煮て良しの万能野菜です。「一般的な青ネギ、白ネギ」だって、恥じること無し。これからがシーズン本番です。おいしくいただきましょう。