「ていねいな暮らし」カタログ

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動物たちに目を向ける——『SとN』

さて、今回もまた前回に続き『SとN』の話をしたいと思います。この3月(2018年)に開催された2号完成記念イベントを聴きに、京都丸善本店まで行ってきました。

イベント自体は、取材中に印象に残った食や人について本誌制作に携わった登壇者がランダムに話すといったもので、1号の時よりも佐賀と長崎の観光事業を意識した内容となっていました。そんな話を聞きながら2号をめくっていますと、1号と同じような体裁であるにも関わらず、ページをめくっている時の印象がまるで違うなと感じました。たまたまのようであるのですが、2号には動物の話が多く出てくるんです。馬と人が共に暮らす場所をつくることを目的としたクラブリオの馬(表紙にも使われています)、風の牧場の牛やヤギ、塚島ファームの牛、犬や猫などなど。

「たまたま」というのは、会場からの「表紙の写真はどのように決められたのですか」との質問に対して、「今回は動物が多くて」という返答があってわかったのですが、1号では人の表情が多く取り上げられていたことに対して、2号では明らかに動物の写真が多い。というよりもむしろ、暮らし系雑誌において動物が登場することが少ないなということに逆説的に気づかされたと言った方がよいでしょうか。

自然との共生やありのままに暮らすことを考える時に、動物の暮らしぶりに着目するのは当然のことのように思います。もちろん、動物と一緒に暮らす・飼うことは並大抵のことではないので、誰しもが体験できることではないのですが、暮らしを「飼いならすことの難しさ」を根本的に見直すという意味でも、人だけでなく動物に目を向けるということは非常に示唆的な転換だなと思えてしまったのでした。おそらく、『SとN』編集チームにこのような意図はなかったと思いますし、これこそ私のうがった見方に過ぎないと思うのですが。本誌においてクラブリオの方が次のように語っています。

「馬たちと一緒に生活することで、これからの生き方の重要なヒントを得られると思うんです。モノや商品として捉えていた価値観が、いろんな分野で変わってきているように」1

(1)『S/N』2号 2018年3月1日発行 p.21

※2018年は、日本各地が自然災害に見舞われる大変な年となってしまいました。停電、断水、流通が滞るなど、暮らしの「当たり前」が当たり前でなくなり、強制的に生活の見直しを強いられるということはとてもしんどいことです。少しでも早く平穏な日常が戻るようにと思うと同時に、「ていねいな暮らし」への関心がどのように展開されていくかについてしっかり考えていかねばと思っています。今回でこの連載もちょうど1年となりました。

著者について

阿部純

阿部純あべ・じゅん
1982年東京生まれ。福山大学人間文化学部メディア・映像学科講師。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門はメディア文化史。研究対象は、墓に始まり、いまは各地のzineをあさりながらのライフスタイル研究を進める。共著に『現代メディア・イベント論―パブリック・ビューイングからゲーム実況まで』、『文化人とは何か?』など。地元尾道では『AIR zine』という小さな冊子を発行。

連載について

阿部さんは以前、メディア論の視点からお墓について研究していたそうです。そこへ、仕事の都合で東京から尾道へ引っ越した頃から、自身の暮らしぶりや、地域ごとに「ていねいな暮らし」を伝える「地域文化誌」に関心をもつようになったと言います。たしかに、巷で見かける大手の雑誌も、地方で見かける小さな冊子でも、同じようなイメージの暮らしが伝えらえています。それはなぜでしょう。そんな疑問に阿部さんは“ていねいに”向き合っています。